週刊少年チャンピオンシップの迫田編集長は苦りきった表情で編集部員を睨みつけていた。景品当選者数の水増しがバレて、消費者庁からこってり油を絞られたためだ。
「おい、お前ら、なんかいいアイデア出せ!」
断っておくが迫田は社内きっての敏腕である。座右の銘は「金でダメなら女で部数を稼げ!」であり、販促のためなら手段を選ばないタイプである。お上品に「マンガなんですからマンガで勝負しましょう」などと言おうものなら、そんなオカマ野郎は少年ジャンプにでも行きやがれ、が口癖である。つまり、雑誌は売れてなんぼの世界であり、おまけ、景品、とにかく、ありとあらゆる手段を講じてでも部数を確保せよ、が迫田の信念なのである。まったく困った昭和野郎である。
こういうおっさんはだいたい暴走する。放っておくと、ほぼ間違いなくコンプライアンス違反になる。ついでにセクハラ、パワハラも当たり前。まっ、今回の景品当選者数水増し事件は、起こるべくして起こったというところである。
そんな敏腕迫田なので、消費者庁のお小言ぐらいで凹むわけがない。はいすいません、二度としません、などとおとなしくなると思ったら大間違いである。木っ端役人のくせに生意気な!くらいの感じである。なので、意地でも消費者庁の鼻を明かしてやる、と意気込んでしまう。
「いいか、間違っても3名様にプレゼント、というような、ちんけなことにはすんなよ!いかにも週刊少年チャンピオンシップらしく、人を食ったような、それでいて射幸心を煽りまくる方法を考えろ。消費者庁がギャフンというようなやつをぶちかませ!」
マンガそっちのけの議論に、一部の心ある編集員たちは、これってどうなの?と思ったらしいが、こういう馬車馬タイプは、忠告したところで素直に聞く耳など持っているはずがない。
で、こういう上司には必ずといっていいほど調子を合わせるゲスな部下がついてまわる。やったもん勝ち、勝ちゃいいんだろ、勝ちゃ、というやつらである。足立は典型的なそういうタイプである。
「編集長、考えたんですけどね、ロト6方式ってのはどうですか?」
どうせろくな考えでもないだろうが、一応聞いてみよう。
「00から99までの百個の数字の中から、応募者は好きな数字を8つ選んで、順番をつけて並べるんです。それを応募はがきに書かせて、それでこっちで当選する番号を選んで、合致した者が当選とするわけです。たぶん、当選確率は天文学的な数字になるでしょうし、どうせ当たんないからフェラーリみたいな高級外車を景品にしても大丈夫。キャリーオーバーありにすれば、きっとめちゃくちゃ盛り上がりますよ」
ない頭というのは絞ったところで臭い滓しかでないものである。射幸心=宝くじ、馬鹿につける薬はない。
が、部下がアホだと上司もアホ、は相場である。足立、迫田はある意味ゴールデンコンビである。
「いいじゃないか、当たんないんだろ?そういう仕組みにすんだろ?」
はなっから読者に景品を差し上げるという考えなど毛頭ない。
「もちろんです。放っておいても当たりませんが、念のため、当選番号は応募のない数字から選びます」
3名様当選のはずが実は1名様だけでした、というより、どんどん悪質になっとる。ゼロになっとる。
「よっしゃ!それで行けや!!」
なんでか知らんが、こういうおっさんは微妙に関西訛りなのはなぜだろう?
ほかの編集部員はしらけた面持ちでふたりを眺めていたが、いつものことである。そろそろまじめに集英社の中途採用に応募したほうがよさそうだ、と転職ジャーナルをこっそり見るやつも出始めた。
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その一週間後・・・
「10個の数字を選んで、君もフェラーリ599XXのオーナーだ!」
マンガ雑誌?というより、品のないエロ本のような装丁が人目を引いた。ひょっとしたら夢のスポーツカーが手に入るかも、という確率論を知らないハナタレどもが応募用紙を求めて、本を買い漁った。販売部数は当初目標どおり、通常の2倍の売れ行きを見せた。
が・・・
悪いことは続かないものである。あれだけ、当選番号は決して応募のない数字でね、と念を押していたにもかかわらず、編集長が好みで選んだ、乳のデカい、いかにも頭の悪そうなアルバイトが間違って数字を入力したため、当選者が出てしまった。挙句に、こんなの景品法でダメに決まってるっしょ、ということで、今度こそ、迫田編集長はお縄になってしまった。
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それ以降、週刊少年チャンピオンシップの景品は地味に「ジョイ3本セット10名様」に統一された。もちろん、麻生久美子さんがにこやかに笑っている写真が使われている。
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つづく