ロマンスグレイの長髪を靡かせて颯爽と歩く金田正三郎先生は、酸いも辛いも噛み分けた大人である。人

生ままならいもの、矛盾に満ちたもの、などということは十分に理解しているので、愛する妻がありながらも、若いおねーちゃんに走ってしまうことは、ある意味、仕方ないね、というくらいの理解はある。


が、金田先生は小学生向けの「みんなの国語辞典」の編集責任者であるため、言葉の使い方に矛盾が生じると非常に憤りを感じる。それは一種の職業病みたいなものである。


最近、彼の頭を悩ませている言葉は


制御およびコントロール


である。「みんなの国語辞典」最新版を見ると、制御の項では「自分の思う方向に動かすこと」とあり、コントロールの項は「ちょうど良い具合にすること、保つこと」とあって、例文としては「私のパパは、当たり前ですがママをコントロールできません」とあり、これで学ぶ小学生は自分の家族を振り返って、そうだそうだ、と言っているらしい。


なので、制御およびコントロールという言葉が使われる以上、パパがママに対してできるレベル以上の「ちょうど良い具合にすること」が求められるわけで、ちょっと考えれば、人間相手とか自然相手にそんなことなどできるはずがないことは容易に想像できる。だって、台風だって竜巻だって地震だって、人間がコントロールできた例がありましたか?ありませんよね、というのが金田先生の意見である。


が、自然相手にコントロールできてますから、という人がいるので困ったことになる。地下を縦横無尽に走る地下水を、コントロールできてますから、という人がいるから困ったことになる。普通、コントロールできてません、というのが正しいだろうにな、と誰もが思うのだが、コントロールできてます、と言い張る人がいるから困ったことになる。


だが、一国の首相がそう言い張る以上、小学生向けの国語辞典がそうではありませんとは口が裂けても言えない。なので、金田先生はしぶしぶ制御およびコントロールの項を書き換えることにした。


制御・・・自分の思う方向に動かすこと、時々、そう思い込もうとすること

コントロール・・・ちょうど良い具合にすること、ただし、不都合な部分は無視すること


例文・・・私のパパはママをコントロールしている。が、なぜかママはあっかんべー、と舌を出している。なぜだろう???そりゃだって、麻生久美子さんには似ても似つかないママだからでしょ???


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つづく