一昨日、この数日間、仕事の区切りがつかないで焦っているところに、ユウちゃんからメールが届いた。


『Woman』見た?


とだけあって、ちょっと手が離せないボクは、


見てない


とだけ返信するのがやっとだった。ユウちゃんは、カンのいい子だから、ボクが手が離せない感じは、きっと伝わっているだろうと思ったが、意外なことにまたメールが来て


なんで?


と言ってきたので、ボクもちょっと意味が分からず、返信するのはやめて仕事に戻った。結局その日は徹夜で仕事をやっつけて、ほとほと疲れて、朝方、珍しく爆睡してしまった。


・・・


日頃の慢性的な睡眠不足と、夜ごとの深酒のためか、昨日はほとんど起き上がれずに、ぐだぐだ過ごした。本当に疲れると、TVはおろか、音楽すらも聞きたくなくなる。窓から漏れ入るわずかな騒音と、ブーンと唸る家電品の音以外、なにもない空間にいると、日頃はほんの少しも我慢できなくなるのに、昨日は、むしろ、心の底からホッとする感じがして、携帯の着信音、固定電話の着信音、タブレットのアラーム音、ありとあらゆる音源をすべて止めて、今日はこのままここに隠れ込んで過ごそうと決めた。


椅子はこんな音をしてきしむんだ、お湯はこんな風な音を立てて沸くんだ、ラーメンをすするとこんな感じで響くんだ、などと、ぼんやり考えているうちに、また眠くなって、夕暮れ時を過ぎ、あたりが真っ暗になるまで眠ってしまったようだった。


11時過ぎ、さすがに音のない生活にも飽きて、Corinne Bailey Raeをかけて、携帯の音源を戻し、一応チェックしたものの、特に誰からも連絡はなく、こんなもんか、と思っているうちに、そうだ、ユウちゃんから変なメールが来てたんだ、と思い出した。


昨日はゴメン、何だったの?もう遅い?


と送信すると、しばらくして


別に。『Woman』見たかなぁ、と思っただけ。


と返信があり、ボクの『Woman』中毒をからかわれているんだろうと思い、


いや、見てない、というか、見れてない


と、暗にボクだって忙しい日もあるんだぞ、くらいのつもりで返信したところ、


見れば。きっと泣くよ。


と戻ってきた。ふーん、そういうことね、とは思ったものの、


毎回泣いてるよ


と返事したところ、


そうだね


と返事が来て、なんとなくメールを打ち切られた気分になった。


そういわれると、ちょっと癪には触るが、十分に眠ったボクは、見るぞ!くらいの勢いで『Woman』第9話を観はじめた。


・・・


泣けた。台所のシーンは声を出して泣いてしまった。母と子の関係に戻るふたりを見て泣いた。絶望の淵で、母親にすがりつくしかないルナルナを見て泣いた・・・


・・・


3回見て、3回続けて泣いた。


・・・


映画やTVドラマを見てボクが涙を流すのは、周囲に知らないものはいないし、それは自宅だろうと、誰かの部屋だろうと、映画館だろうと一緒のことで、別に涙は勝手に流れてくるんだから、恥ずかしくもなんともないが、さすがに、声が出てしまうほどだと、自分でもちょっとなあ、と引いてしまう。つくづく、今回はひとりきりで見てよかったと思った。


でも、台所のシーンだけでなく、二階堂ふみと小林薫のシーンも別の意味で気になった。彼女を見ながら、ボクはユウちゃんを思っていた。どこか不健康そうに見えるユウちゃんも、ひょっとすると何か逃れたい現実があって、ぎりぎり折れないところを彷徨っているのかもしれない、と思った。


・・・


ユウちゃんにメールしようかと思ったが、深夜3時を過ぎてはさすがにまずいだろ、と思ってやめておいた。それに、大泣きしました、と報告するのも、いくらなんでも恥ずかしすぎる気がした。次回もひとりで見た方が無難だな、とも思った。


・・・


すっかり眠気も覚め、気分でも変えようと、麻生久美子の『コドモのコドモ』を見ていたら、谷村美月が出ていて、あっ、『Woman』の女医だ、と自然に声が出た。『Woman』にはまりすぎだろ、と、ちょっとだけ自分を戒めた。


・・・


・・・


つづく