ゼロ票はゼロ票だよ、ばーか!


中学生時代、生徒会役員選挙で投票総数768票のうち、わずか13票しか獲得できずに惨敗した経験を持つ美馬俊彦39歳は、先の参院選で、高松市での得票数がゼロであったことに抗議している、ある議員後援者に向かって、心の中でこう罵るのだった。


選挙なんてよお、裏切者だらけなんだよ!


美馬の場合、支援母体は2年3組の38名であった。クラスでぜーんぜん目立たない美馬であったが、この時ばかりはクラス全員の一致した推挙によって役員選挙に立候補することになったのだが、日頃からアニメファンをもって任じる自分が、いよいよクラスのみんなにも認められたんだな、と、心躍る日々であった。が・・・結果は、クラスの半分にも満たない票数しか獲得できずに惨敗である。


調べたって同じこったよ。ゼロはゼロなんだよ!


担任の三島は怒った。役員選挙が終わった日のホームルームは、下校時間を過ぎても全員が教室に缶詰にされて、延々と説教を食らった。お前らは全員で美馬を推薦したんじゃないのか、応援するって約束したんじゃないのか、仲間を見殺しにするってのはどういう了見なんだ、美馬の気持ちを考えたことがあんのか、ひとりずつ、どういう応援したか、ここで、美馬の前で話せ!

新任教師がどう叫ぼうが、教室内にはしらー、っとした空気が流れるばかりである。


本当に投票したかどうかなんて、わかるわけないじゃないか!


私、ちゃんと入れましたから。もう帰っていいですか!成績のいい佳恵が切り出すと、その取り巻き連中が、私も、私も、帰っていいですよねえ、私たち関係ないし、などと言い始めた。こういう連中はホントむかつく。担任の三島も、どうやらそんな彼女たちに日頃から鬱憤がたまっていたようで、入れたかどうかじゃない!お前たちがどう応援したか、美馬のために何をやったかを聞いてるんだ!佳恵!お前、何やったっていうんだ!結果じゃない!プロセスだ!お前が人のためになにをやったかだ!そんなこともわからんのか!!! 今なら保護者がだまってない狼藉ぶりだが、なにせ二十数年前だ。教師の権威が失墜するのは佳恵が母親になってからの話だ。


あんたよりもっと大事な付き合いがあるだけの話だよ!


オレさあ、悪いけど部活の仲間が立候補してるんでさあ、そっち、入れないわけいかないじゃん。美馬、ワリいワリい。悪びれることなく語るのは、クラスの人気者、木村である。いつの世にもどこのクラスにもいるが、そいつの一言でクラスのムードをがらっと変えてしまうやつがいる。さすが、木村君である。そういう星のもとに生まれてきているのは血筋なんだろうか?クラスのムードは一瞬弛緩し始めたが、担当の三島はいつになく執拗に迫る。木村!もっともらしいが、ならなんで美馬を推薦したんだ。あの時、クラスはお前を推薦しようとしていたのを、お前が美馬のキャラクターが面白い、って話にしたんだろうが!お前、美馬に嫌な役を押し付けたって事か!そういうことか!おい、木村!はっきり言え!


あんた、嫌われてるんだよ!気づけや、もっと早く!


担任の三島が熱くなればなるほど、美馬は身の置き所がなくなるのだった。もう十分だった。一部の女子がちゃんと入れてくれて、木村が悪いと言ってくれて、そりゃそうだよ、帰宅部の自分と違って、みんな部活やってんだし、クラスだって1年の時からの付き合いとか、小学校が一緒とか、いろいろあるんだから、仕方ないよ。後の祭りなんだよ、選挙なんだもん、後でなんとかかんとか言ったところで、票数が少ないってのは、それは自分が嫌われてるってことだよ。今さら言っても、恥の上塗りだよ。


そう、後でごちゃごちゃ言っても、恥の上塗りなんだよ!


もういいんです、先生。僕の力不足ですから。美馬が担任の三島を押しとどめ、自分の空回り加減にやっと気付いた三島が矛を収め、クラス全員が少しだけ美馬を見直して、長い長いホームルームがようやく終わった。


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この時に多くのことを学んだ美馬俊彦は、その後某大学の政治学専攻科に進み、選挙動態調査を研究している。もちろん、麻生久美子が千葉県選挙管理委員会のイメージキャラクターに選ばれたことを知らないはずはない。


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つづく