森野徹42歳は迷っていた。静かな休日をDVD三昧で快適に過ごせたとはいえ、このまま本当に遥香さんが帰ってこないとなると、それはそれでとても面倒なことになるような気がしたからである。自分の家出なら、適当な時期を見計らって帰ろうと決めているので心配はないが、遥香さんの場合はどう転ぶか皆目見当がつかないので厄介だ。そろそろ迎えに行くべきか、それともこのまま放っておいて、帰ってきたら、おかえりー、と何事もなかったかのように迎えるか、どうしたものか、ほとほと迷ってしまった。自分が家出した時、遥香さんもこんな風に悩んだのだろうかと、少しだけ考えたが、いやB型の彼女がそんなことで悩むはずはないと、弱気な自分を戒めた。
伊勢崎まで迎えに行くとなると、3時間はかかる。乗り換えも多いしえらく面倒くさい。しかも、日本全国有数の猛暑地帯なので、この時期に行くのは熱中症覚悟の上だ。が、夏休み最終日の今日を逃すと、平日に行くのはもっと面倒だ。でも面倒だなぁ、嫌だなぁ、と思っているうちに、あっという間にお昼になった。
まぁいいや、おでんでも食べてから決めよう、と、森野徹は近所のセブンイレブンに行って、おでんを買ってきた。やっぱりおでんにはビールだよな、ということで、ビールを3本飲んだら本当に面倒くさくなり、行くにしても涼しくなってかにしよう、真夏に群馬に行くなんて自殺行為だ、などと考えを改め、ここは、麻生久美子のクールビューティーでも堪能して頭を冷やそうと考え直し、お気に入りの『シーサイドモーテル』を見ているうちに眠くなり、いいやいいや、夕方でいいや、という気になり、そのまま眠ってしまった。
断っておくが森野徹42歳はA型である。きっちりした性格である。突然考えが変わるB型とはわけが違う。考えに考えた挙句何もしない、ということは多々あるが、A型だもの、仕方ないじゃないか・・・などなど考えながら、昼間のビールと、麻生久美子の色っぽさが手伝って、快適な眠りに落ちた・・・
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目が覚めると、外は夕暮れ時であった。そろそろ出かけるかなぁ、でも面倒くさいなぁ、嫌だなぁ、と思っているうちにも刻々と時は過ぎ、時計を見ると8時を回っていた。この時間から伊勢崎まで行くと帰ってこれるのかなぁ、と考えると、そりゃ無理だろ、という結論に達した。となると、明日の仕事に支障が出るので、残念だが今日は迎えに行けない、ということになるのではないか?と考えた森野徹は、仕方ない、残念だが迎えに行くのは諦めよう、だって仕方ないことじゃないか、と自分に言い聞かせた。
そうと決めたら夏休み最終日の夜を快適に過ごしたいじゃないか。そう考えた森野徹42歳は、隣のサンクスで旨辛チキンとハイボールを買い込み、意気揚々と部屋に戻った。
?ん?
鍵かけたっけ?
A型の森野の事である。隣のコンビニに行くのだってちゃんと鍵はかけて出かける、はずだが・・・鍵がない。あれ???
試しにピンポーン、と押してみる。当然ながら返事がない。いや、返事があったらおかしいよな、などと苦笑いする森野。
が、やっぱり気になり、ピンポーン、ともう一度押してみる・・・その瞬間、ガチャンと強引にドアが開き、目の前に、カチンコチンに凍った保冷剤が飛んできた・・・・・・・
・・・
・・・気が付くと、隣で遥香さんが、おいしそうに旨辛チキンを食べている。「・・おかえり・・遅かったね」という森野の言葉は、全く遥香さんの耳に届いていないようだった。
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翌朝、隣の室田さんちに、伊勢崎名物焼きまんじゅうを配る、にこやかな遥香さんの姿と、痛々しい眼帯姿で出社する森野の姿が201号室の羽生さんに目撃されたという話しだ。
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つづく