組織票の固さで定評のある、あの政党を支えているのは、地道に軒先めぐりを重ねるおばちゃんたちである。選挙が近づくと、どこからともなくやってくる、いつとはなく電話がかかってくる、いつになくお手紙をもらう、そういうおばちゃんたちである。
尾上勝子(63歳)もまた、そういうおばちゃんのひとりであり、40年来続けた地道な活動が無駄であったはずはないと確信している。
どんな選挙でも一切の手抜きをしない彼女であったが、国政選挙ともなると気持ちの入り方が違う。ABCマートでウォーキングシューズを3足新調し、今回も2000軒は回ろうと固く誓ったところである。
そんな勝子さんを若い地区長さんが呼び止めた。
「勝子さん、アドレスは集まった?ちらし送ったらBCCで僕にもくださいね」
なにしろ熱心な勝子さんのことである。言われなくともやっていくれているはず・・・である。
「はい、地区長さん。全部送り終えたら冷たーくひやしたの、もって行きまーす」
冷たくひやす?そりゃUCCだろ、と突っ込みかけた地区長さんだが、ここはぐっとこらえた。いちいち反応するとおばちゃんはつけあがる。
「ハハ、ご冗談を。・・・で、何分で・・できます?」
「何分?地区長、それは焦りすぎでしょ。大丈夫です。選挙期間中に2000軒は回りますから。ほら、靴も新しくしたし」
勝子さんは買ったばかりの3足を、誇らしげに掲げて見せた。わかいもん、とくと見よ、である。
「・・・さ、さすがですねぇ、・・・で、メールのほうなんですけど・・・」
恐る恐る聞いてみる。
「やーだ地区長、メールなんて英語つかっちゃって。大丈夫ですよ、昨日までにあて先は大体書いときましたから!」
いやな予感は大体あたる。
「・・・ハハ・・・そうですよね、やっぱ勝子さんにはメール無理でしたよね・・・いいです、それはこちらで」
と地区長が口にしたそのときである。勝子さんの顔がみるみる真っ赤に変わっていく。
「な、なんですか、その言い方!私にも意地ってもんがありますから!!!」
言っておくが、おばんが意地を持ち出すと、大体話がこじれる。勝子さんも例外ではない。
「・・いいんですよ、勝子さんは勝子さんのやり方で・・・」
「私のやり方が古いんなら古いと言ってください。送ればいいんでしょ、送れば。メールがいいんでしょ、メールが!!」
こうなると手に負えない・・・頭を抱える地区長さん。
・・・
右手の人差し指で一文字一文字メールを打ち続ける勝子さん。彼女が予定数の送信を終えたのは投票日から10日後のことであったという。地区長さんが最後まで付き合ったのは言うまでもない。
そんなことがあろうとなかろうと、今回もあの政党は組織票を固めて磐石の強さを誇る見込みらしい。
・・・
・・・
「投票にはちゃんと行きましょう by ○○県選挙管理委員会」
「?頼まれたんですか?」
「いえ、またどっかからオファー来ないかなーと思って・・・」
「・・・」
・・・
・・・
つづく