持田泰三(76歳)の怒りは頂点に達していた。
「絶対に許さん。全面戦争だ。佐賀県なんぞ、ひねりつぶしてくれる!!!」
今でもサントリーに隠然たる院政を敷く持田は、佐賀県からビールというビールを引き揚げさせた。この動きにキリン、アサヒ、サッポロも追随し、佐賀県はあっという間にビール空白地帯になってしまった。
それだけではない。持田の佐賀県憎しの怨念はすさまじく、居酒屋での「とりあえず」注文の差し止めを求める訴訟を提起。「とりあえずビール」は言うに及ばず、「とりあえず日本酒」という注文すらできない異常事態となった。
そもそも居酒屋で「とりあえずビールね」といいつつ、出されたおしぼりで首筋を拭くというのはお約束事である。サラリーマンが一人前になったかどうかは、この手順が正しく踏まれるか否かで判断できるといって過言ではない。佐賀県がいくら条例で取り締まりを強化しようが、「とりあえずビールね」という注文の仕方はサラリーマンの骨の髄に浸みこんだ習性なので、これを矯正するのは容易ではない。事実、この注文方式が禁じられてからというもの、佐賀県下の居酒屋売上高は目に見えて減少し始めた。
だいたい、兵庫や新潟ならいざ知らず、佐賀県で日本酒の乾杯を推進したところで、いかほどの効果があるというのだ。何を守ろうとしているのか全く意味が分からん。酒造蔵か?酒米か?どっちにしても大した影響などありそうにない。あるとすると、「日本で最初に日本酒での乾杯を推奨した県」という称号か?それが何か意味を持つのか?
持田は完全に怒り狂っていた。こんな勘違い県にはビール以外の酒類も一切販売はならん、とお触れを出した。
ビールもワインもウィスキーもないなんて・・・
困ったのは嬉野温泉である。福岡、熊本あたりからの宴会需要がどっと減り、生活に困窮した女将の一部が九州一の繁華街、中洲あたりで身をやつしているという噂が駆け巡った。
こうなると佐賀県内に支店支社を出していた大手企業も黙ってはいない。「そもそも佐賀支店って必要?」というそもそも論が台頭し、結局、「博多からで十分ジャン」という結論に至り、撤収する企業が続出する始末。ついにはビールメーカーからの圧力を受けた東洋製缶が基山町工場を閉鎖するに至り、佐賀県は土壇場に追い込まれた。
気が付くと、周囲はがばいばあちゃんばかり・・・
サラリーマンからそっぽを向かれ、老舗旅館の女将もいなくなり、寂れ果てた佐賀県。見かねた総務省が福岡県と熊本県に分割吸収を打診したが、今度は県境の線引きでもめはじめ、事態は悪化の一途である。トホホ・・・
このドタバタを眺めながら、すっかり溜飲を下げた持田は、どや顔でビールを飲み干し、ゲップ三昧が止まらないんだとさ。
・・・
・・・
「ノーコメント。佐賀県のみなさん、麻生久美子はこの記事と何ら関係ないですよ、勘違いしないでくださいね。悪いのは変態オヤジですからね。間違わないでね」
「でも、麻生さんだって乾杯はビールでしょ。日本酒ではしないでしょ」
「・・だって、それが普通でしょ、乾杯は普通そうでしょ」
「・・・だそうです。」
・・・
・・・
つづく