ザックジャパンのブラジル行きが決まった昨夜、渋谷スクランブル交差点で誰彼なくハイタッチを繰り返す若者を、心配そうに見守るふたりのおっさんに気がついただろうか。警察車両の陰に隠れてはいたものの、かつてプロスポーツ界で鳴らしたふたりのがっしりした体型は、隠すべくもなかった。


「やばいんちゃうかなあ」


「ソウデスネン、ワシトオナジ シッパイ サセラレヘン」


ひとりが関西訛りで話しかけると、もうひとりは関西訛の強いカタコトの日本語で応えた。


「思い出すわ、あんときのこと。あれ、ホンマ痛かったんやで。死ぬか思うたわ」


「モウ イワントイテ クダサイ カンベンヤデ」


こぶとりの方が自らの右肩を撫でながら横目で睨むと、大柄なもうひとりは体を半分に折るようにして恐縮した。


「ハイタッチはよっぽど気をつけんといかん。わしは脱臼で済んだが、骨折することもあるけえのお」


「ホンマデスワ アンサンノ センシュセイメイ ウバウトコデシタワ ホンマ エロウ スンマヘンドシタ」


どうやら彼らには、ハイタッチにまつわる消し去り難い過去があるらしい。


「それにしても、わしら、こんなとこで油売っててええんかい。また、野村のおっさんにぼやかれるで」


「キョウハ ニホンゼンコク ザックジャパン イッショクデスワ ワテラ シゴトニナリマヘンテ」


「今は猫も杓子もサッカーやな。わしらデブにはしんどい話や」


「ソウデスナ アンサン アキレスケンキッタユーテ レンシュウ サボッテマシタモンナ」


「アホ!玉遠くに飛ばしたら、別にゆっくり走ったかて、かまへんやろ」


・・・


それっきり彼らの会話は途切れてしまった。目の前では興奮した若者たちが、幾度も幾度も歩道を行き来しながら、相変わらずハイタッチを繰り返している。


・・・


「ブーマー、お前いったれ。ハイタッチの恐ろしさを見したれ!」


「エエンデスカ カドタハン」


「あぁ、かまへん。ほんまのハイタッチがどんなもんか、見したれ」


「ヨッシャー イッチョ キアイ イレマッセ!」


・・・


・・・


昨晩、渋谷界隈の救急病院に搬送された脱臼、亜脱臼の急患は約50名にも上ったらしい。警察は容疑者として自称元プロ野球選手2名の身柄を確保したが、彼らは「わてら、勝利を祝してハイタッチしてただけですねん。スポーツにハイタッチは付きもんでっしゃろ」と容疑を否認した。被害者もその時のことは興奮していてよく覚えていない、とういうことで、彼らの容疑を立証することができなかった。


・・・


「いまさらやけどなぁ、ブーマー、あんとき、お前、わざとやったんか?」


「ナ、ナニイイマスネン。アンサンノ ホームラン ヨロコンダ ダケスワ」


・・・


・・・


これからもザックジャパンの勝利のたびに、渋谷の路上ではハイタッチが繰り返されることだろう。だが、ハイタッチで名を馳せたふたりの元プロ野球選手のことは、私たちの記憶からいつのまにか姿を消してしまうのかもしれない。


・・・


・・・


「私、キャッチボールはヘタクソだから」(※映画『eiko』で確認せよ)


「ほかに何かスポーツやってるシーンってありましたっけ?」


「カンゾー先生で泳いだわ」


「というより、鯨に引っ張られた、って感じでしょ」


「そうね・・・」


「あんまりスポーツネタだど登場しにくいですね」


「ホント。もうこれっきりにして欲しいわ、スポーツネタ」


・・・


・・・



つづく