映画「ガタカ(GATAKA)」をご存知だろうか。この作品で、監督のアンドリュー・ニコルは、遺伝子コントロールに支配される未来社会を描いてみせた。そこでは、子供は優秀な遺伝子の組み合わせの結果として生まれ来るべきもので、愛あるSEXの不確実な結果として産み落とすべきものではないことが予告された。


GATAKAの世界は空想である。だが、2018年の我々は、間違いなくその前段の社会に生きている・・・


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きっかけは米ペンシルベニア大学が2013年に公表した調査結果であった。


『健康にいいエッチ 週2回がベスト!』


誰もが食いつきそうなキャッチで人心を煽るのは、マスコミの常套手段だ。週刊宝石あたりが100年も前から使い古した踊り文句に、思わず飛びつくエロじじいは、そんなに多くもないはずだ、などと誰もがタカをくくっていた。ところが・・・


政治というのは恐ろしいものである。こんなどーでもよろしい調査結果も、政府が利用し始めると、とたんに恐ろしい結果を招来してしまう。厚生労働省がこの調査報告をもとに、東大に追加調査を委嘱したところ、驚くべき報告書があがってきた。


健康に良いSEXは確かに週に2回である。多すぎても少なすぎても良くない。

健康に良いSEXは1回あたり45分間である。長すぎても短すぎても良くない。

健康に良いSEXはフィニッシュがバックであること。正常位や騎乗位は良くない。

健康に良いSEXはピストン運動が毎秒3回であること。早すぎても遅すぎても良くない。

以上の4箇条を励行すると、免疫力が50%向上して、年間医療費が30%削減される。


これこそ、膨大化する一方の医療費問題に決着をつける切り札だ!総理大臣のアベっちが大声で喝采をあげたのは言うまでもない。


この報告をもとに、政府は大々的なキャンペーンに打って出た。世に言う「管理SEX時代」の到来である。もはや、自由奔放なSEXなど、容認されるどころか非国民扱いである。4箇条はスタート時こそ単なる「励行」「推奨」に過ぎなかったが、いつの間にか「必須」「欠くべからざる」ものに神格化されていった。


政府のキャンペーンにいち早く反応するのは許認可権限を握られている大企業と決まっている。政府のキャンペーンはまず大企業の従業員がターゲットにされた。大企業の健康管理センターでは、日々のSEXを記録し、提出する義務を社員に負わせた。


そうなると次は商魂たくましいなにわの商人たちが跋扈しはじめる。4箇条を忠実に励行できるよう、マニュアル本が次々に作成され、店頭に並んだ。レンタルのツタヤでは、「管理SEXのすべて」というDVDが通常2週間待ちとなる人気ぶりだ。


TV業界も反応が早かった。BS放送でうるさいほど流れていたサプリメントのCMはぱったりと鳴りを潜め、かわりに「私はこの管理SEXで免疫力をUPしました!」という体験者がとって変わった。ちょっと不思議だったのは、体験者がサプリメントの時と同一人物であったことだが、気がつく視聴者は皆無であった。


人気が出ると、まがい物や詐欺的商法が付随して現出するのも仕方ないことかもしれない。公式管理SEXは4箇条しか定めていなかったが、これをよいことに、何箇条か追加する悪徳商法が蔓延した。効能が怪しげな、「右手はこうやる」とか「「驚きの緊縛手法!」などというものが現れ、狭い会場で手法を購入するまで帰さない、という手口で、多くの中年女性が被害にあった。これらは「やれやれ詐欺」として大きな社会問題化した。


当然、世の趨勢から落ちこぼれる人間もいる。管理手法に馴染めず、従来スタイルへの愛着がぬぐい去れない一部の人間は地下に潜ったが、「フリーセックス最高!」と騎乗位で叫ぶ若者を取材したドキュメンタリーを見て、白金夫人たちは眉をひそめた。


かくして、管理SEXの時代は全盛期を迎えた。今やその効能について疑いを持つ者はひとりもいなくなった。ただ、医療費の高騰は収まらず、免疫力のUPが実現したというデータも未だ公表されていない。


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「こんなおしりフェチに都合のいい世の中なんて、まっぴらゴメンだわ!」


「何を言っているんですか、越前さん。これはお上が決めたルールですから、下々は守らなければなりません。黙って従ってください」


「?私は神様よね。どーして神様が従わなきゃなんないの?」


「・・・それもそうでした。では神様はご自由に」


「そりゃそうよ、やっぱり自由が一番。フリー○○○サイコー!!」


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つづく