完璧な生活。完璧な世界。その裏側に潜む不安を主人公と一緒に体験していく良作

 

「ドント・ウォーリー・ダーリン」は「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」で初監督を務め、絶賛された女優のオリヴィア・ワイルドによる2つ目の監督作品。フローレンス・ピュー、ハリー・スタイルズ、クリス・パイン、ジェンマ・チェンらが出演している。

 

ストーリー:1950年代、カリフォルニア州のビクトリーという街でアリスとジャックは豊かな暮らしをしていた。周囲には同じように若く、豊かな夫婦が揃い、幸せを絵に描いたような生活。時折起こる地震と、夫のジャックの仕事である「ビクトリー・プロジェクト」が妻にも秘密である点、立ち入り禁止区域が多くある点を除けば、アリスの生活は何一つ不自由ないすばらしいものだった。しかしある日、アリスは飛行機が墜落するのを発見し、立ち入り禁止区域に立ち入ってしまう。

 

面白かったです。

 

映像がもう本当に素敵で、世界観に一気に入り込んでしまいました。「ラストナイト・イン・ソーホー」の時も思いましたが、こういう「古き良き時代」っていいですよね。アメリカ人にとってもこれが「古き良きアメリカ」なのかはわからないですが、やっぱり勢いがある時代って感じでワクワクしちゃいます。

 

色使いもすごく良くて、完璧だなって感じの世界。そんな世界に、少しずつ異物が混じってきて「何かがある」というのを実感させていくのが非常に上手かったです。

 

怖いっていうのとは少し違って、不気味な感じがじんわりにじみ出てくる感じです。まあ怖いところも結構あるんですけども。

 

なんか「完璧」ってちょっと怖いじゃないですか。どこかに見落としがあるんじゃないかって。多分実体験でもそうだと思うんですが、あまりにも毎日上手くいくようなとき、最初はうれしいですが、あまりにも続いたら「これで大丈夫なのか……?」って思うんじゃないかと思うんです。……いや、そうでもないかもしれないけど、毎日上手くいくような生活めちゃくちゃほしいけど、とにかく安定の裏に何か不安定があるんじゃないかっていう不安は多分あると思うんですよね。上手くいく生活が壊れたどうしようみたいな不安はいつか来るだろうし。

 

で、そういう不安が上手く表現されているというか、観客も「こんな完璧な世界、どうかしてる」って思うわけですよ。多分。予告編を観たり事前情報を得たりしていなくても。

 

その不安というか完璧のものについている瑕みたいなものが徐々に大きくなっていくような映画でした。で、それに主人公のアリスも観客と一緒に気付いていくので、すごく感情移入しやすかったですね。夫とか周りは「ここの生活最高だよ」「疲れてるんだ」みたいなことしか言わない中、どんどん孤立していく流れも、観客としては入り込みやすかったです。

 

観客は最初傍観者として綺麗な生活と、バカみたいに浮かれているアリスたちを観ていくんですが、だんだんとアリスの心情に寄っていって、最後はアリスを通してこの世界を観ていくって構成になっていて、これが非常に上手く機能していました。

 

映像の美しさも相まって、ぐいぐい引き込まれましたね。

 

惜しいところを言うとするなら、物語が一気に動く中盤から終盤にかけての展開はそんなにハマらなかったってとこですかね。ただこれは物語に対する好みもあると思うので、仕方ないのかなとも思います。まあ「ラストナイト・イン・ソーホー」も終盤の展開はあんまり好きじゃなかったし、結構かぶるところが多い印象でした。フローレンス・ピューが魅力的だしね。

 

そんなこんなで個人的には非常に楽しめた一作でした。

 

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