どこかのんびりとしているにも関わらず、リアリティを感じる一作

 

「それぞれ、たまゆら」は、京都を中心に活動している劇団MONOの主宰、土田英生監督のデビュー作。金替康博さん、鳥谷宏之さん、中越典子さんらが出演している。

ストーリー:世の中で突然、人々が眠り始めた。まだ起きている人々が避難所として指定されている体育館に集まってくる。しかし、職員も含め、何が起きているのかもわからない。そして、集まった人の中からも眠り始める人々が現れる。次第に世界が終わりに向かっていく中、起きている彼らは何を話すのか。

 

面白かったです。かなり。

何だろう、みんなが眠っていっちゃうっていう世界観がいいんですよね。結構怖いことなのに、妙に緊迫感に欠けるというか。「人類の危機」感がないんですよ。だから、残された人々も何だか全然焦ってなくて。いや、焦っているんだろうけど、どう焦ればいいのかわかんない感じ。その雰囲気がすごくリアルで、この世界を想像しやすかったです。

こうして想像しやすいから、自分なら最後にどんな会話をして、どんな人と会いたいだろう、みたいなことを考えさせてくれる一作になっているんですよね。

そして、出てくる人たちが本当にくだらないことを話しているんです。これがまた良かったんですよね。会話がすごくコミカルで、でも何だかこういう時だから話しちゃうって風にも思えたんです。なので単純に会話の面白さを感じることができましたし、結構笑いました。

人間関係の作り方も良くて、くだらないことにこだわって上手くいかなかったり、本人にしかわからない価値観とか出てくるのが面白かったですね。基本的に交わることがなかった人々がこの状況で一堂に会するというのも面白くて、荒唐無稽な設定なのに、すごくリアルな話に思えました。

でもアフタートークで少し触れられていましたが、気軽に観るのが正しい作品だと思いました。コロナの情勢を感じさせる、とかそういうのはちょっと違うかな。と。まあ今観たらやっぱり重ねてしまうってのはあると思うんだけど、もっとファンタジーとして観る方が良い気がするんですよね。

 

このコロナの状況を体験した人たちであれば、もっと違う会話をしていただろうという想像ができるのも事実です。でも本作はあくまでもコロナを体験していない人たちが世界の終わりにする会話、って感じです。多分コロナを経験している私たちであれば、もっと世界の終わりに対しての危機感が強いと思いますし、どうしようって話がどんどん出てくると思うんです。だって何だかそういうことをあらかじめ考えちゃってますからね。少なくともこの作中の人たちよりも不意打ち感がないと思うんです。だから、この作中の世界はすでにパラレルワールドになってしまっているのだなあ、と思いました。

そういう意味では観る人たちの立場や状況によって、感じるリアリティには差が出るし、色々と考えさせられるのが面白いですね。

でも今作は不意打ちでこの状況に陥ってしまった人たちの会話が面白いから、これがいいと思います。変に緊迫感があるのはあんまり面白くなかっただろうなあと思うので。

やっているところは少ないのですが、非常に面白い一作なので、ぜひ映画館で観られる人は観て欲しいです。

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