いつの間にかこの寮のことが好きになる。一風変わった青春ドラマ。

 

「ワンダーウォール 劇場版」はNHK京都放送局制作によるドラマ「ワンダーウォール〜京都発地域ドラマ〜」を映画化したもの。監督は、当時今作がドラマ初演出だった前田悠希さん。脚本を「カーネーション」などの渡辺あやさんが担当しており、「いのちスケッチ」などの須藤蓮さん、「踊ってミタ」などの岡山天音さん、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」などの成海璃子さんらが出演している。京都大学吉田寮の寮生追い出し問題を題材にしたフィクションである。

ストーリー:京都にある大学の近衛寮。ここでは10年以上に渡り大学側と寮の存続を求めて寮生が戦ってきた。大学側の一方的な通達が行われたある日、三回生のキューピーら寮を愛する学生たちは学生課に抗議に行く。この日は四回生で交渉の先頭に立っていた三船が抗議の中心。ある時期からほぼ交渉に参加していなかった三船の参戦は寮生に勢いを与えたが、学生課で新人の美人担当者が現れた途端、三船はどこかへ行ってしまう。

 

寮生活。
体験したことのない立場からするとこの響きだけでちょっとテンションが上がりますね。ただ、多分大変なことも多いのだろうなあとは思います。

さてさて、この「ワンダーウォール」はそんな寮生活が大学側からの立ち退き要求によって大変なことになってしまっているという状況を描いた映画です。これは寮生活の経験がある人なら結構ぐっとくるものがあるのかな?とか思いながら観ていました。

自分の住んでいるところが急になくなる、みたいなのは本当に想像がつかないのですが、その時自分がどうなるんだろう、とか色々考えながら観ていました。ただ、この近衛寮の人たちみたいに、住んでいるところを心底気にいることができて、そこを守ろうと思えるなんて、それはそれですごく幸せなことだなあと思いましたね。そこまで愛着を持てる存在があるって素敵なことです。

あまりちゃんと調べたわけではないのですが、心理学的に住空間を自分なりにアレンジするということは良い効果を生むそうです。例えば好きなスポーツ選手のポスターを貼るなどしている学生の方が退学などをしにくいとかいう話もありました。

この近衛寮はまさに「俺たちの」寮という感じなんですよね。学生の自治権が認められているから、みんなで会議をして方向性を決めている。作中でも「だけど満場一致が基本だからめちゃくちゃ長い」みたいな形で語られていますが、こうして自分たちで積み重ねてきたからこそ、守りたいと思えるほどの空間なのだな、と思います。

今作の面白いところは、最初は特に魅力を感じないし、耐震性などに問題がある、などと言われて「壊してもいいんじゃない?」って思っちゃう近衛寮のことを、観ているうちに好きになってしまうことですね。(まあもちろん最初から「いいなあ」って思う人もいるとは思うけど)「絶対住みたくないな」って思っていたのに、ちょっと住んでみたいって思ってしまうし、守りたいと思う気持ちがわかる気がしてきます。

特に大きなことが起きるというような作品ではないんですよ。でも、自分の生き方とは違った、ここで生きる人たちの生活が垣間見られる。それはなんだかすごく面白いんですよね。極端なこと言う奴がいたり、思いを口にできない奴がいたり。何だか色々な人間模様があって、どこかに自分がいるような、そんな感覚になる作品でした。

最後になりますが、今作は京都大学の吉田寮で同じような学生の立ち退き問題が起きていて、それをモデルにしているらしいです。これについては詳しくないのであまりわからないですが、幸せな形で進むといいな、と思います。大学が学生を訴えるなんて展開はどんな状況であれ、悲しいことですし。まあちょっとこの問題については完全に門外漢なので、もう少し調べて考えたいと思っています。

 

映画としても面白かったですし、なかなか興味深い題材なので、気になっている方はぜひみて観てください。

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