物語はよくわからないけど、マチルダが非常に魅力的

 

「マチルダ 禁断の恋」は帝政ロシア・ロマノフ朝最後の皇帝であるニコライ2世と、その愛人であったマチルダ・クシェシンスカヤの関係を描いた伝記映画。ニコライ2世が日本で大津事件に遭った翌年の1982年からニコライ2世の戴冠式があった1896年までを描いていると思われる。主演は「ヒトラーと戦った22日間」などのミハリーナ・オルシャニスカ。ニコライ役は「パーソナル・ショッパー」などのラース・アイディンガー。監督はアカデミー賞外国語映画賞でロシア代表となった「Край(原題)」などのアレクセイ・ウチーチェリ。

 

ストーリー:ロシア帝室バレエ団で人気のあったマチルダ・クシェシンスカヤはロシア帝国の皇太子ニコライ2世の愛人となる。ニコライはマチルダにのめり込んでいくが、父で皇帝のアレクサンドル3世の体調が思わしくなくなってきた。婚約者のアリックスとの結婚を意識させられるニコライだったが、パーティーの場にマチルダを連れて行くなど、周囲を困らせる行動を取っていく。そして、アレクサンドル3世が亡くなった。ニコライは、皇帝になるべく、戴冠式に臨むが……。

 

面白かったです。

ただ、物語が面白かったというわけではない感じですね。ニコライの行動もマチルダの行動もよくわかんなかったです。一番の問題は、そもそも序盤に出てくるエピソードが何なのかさっぱりわからないまま物語が進んでいくことですね。
というのも、今作は最初、戴冠式の場面から始まります。これはまあ時系列的には後のことで、その前が描かれていくことになるわけなのですが、それがわかりにくいんです。「これは後のことなんだろうなぁ」と思いながら最初は観ているわけなんですが、次のシーンがバレエ団の写真撮影を経て列車の事故のシーンになります。


で、その後に馬に乗って障害物競争みたいなものをやっているシーンがあります。これで勝った男が好きな女に言い寄れる的な話になるんですが、ここでニコライとマチルダのシーンがあります。


最大の問題はこのシーンですね。ここでニコライとマチルダの逢瀬が始まる、という感じで描かれていれば、戴冠式のシーンが未来のことだとわかりやすいのですが、何故かここでもうすでに二人が親密な関係であるかのような描かれ方がされます。思い返せば、ここから始まったと考えるのが自然なのですが、描き方的にはどうも始まりのように感じられません。
それはマチルダが「あなたは私から離れられない」的な(セリフの内容はうろ覚えです)ことを言うんです。あたかも長く愛人関係があったかのようなセリフに思えてしまうんです。二人の距離の近さなんかも始まりとは思えない感じなんですよね。
このせいで「ん?これは戴冠式の後の話?だとしたら列車事故はいつの話?」と軽く混乱します。ロシアの人たちにとっては馴染みのあるエピソードで、時系列を考えるなんてありえないことなのかもしれないのですが、知らないこっちとしてはさっぱりわかりません。

この混乱がその後の物語を観る上で軽い足かせになります。

そして、その後のマチルダとニコライの関係性も同じようにシーンシーンで変わってしまうような感じで、継続性が感じられません。お互いに気まぐれっぽい雰囲気があり、主従がすぐに逆転します。それがほぼ理由なく起こるので、関係性の変化みたいなものがもはや追えない感じになってしまっています。
これがもったいない。こんな風に点で描かれてしまうと、どちらにも感情移入ができないまま、コロコロと変わっていく二人の関係を観ていく流れになってしまいます。そのため、ちょっと冗長なシーンが来てしまうと、だれてしまいます。そんなわけで、シーンシーンには力があるし、ニコライとマチルダの関係は面白いので、そこは没入できるのですが、アリックスとニコライの関係とか、話が他のところにいくと、集中力が持続しにくい、というような構成になってしまいました。

その中で特筆すべきなのはミハリーナ・オルシャニスカの魅力ですね。マチルダ役の彼女が魅力的だからこの映画は成立していると思います。物語が把握できなくても、面白く観られるんです。だってすごい魅力的だから。ニコライや周囲の男が好きになるのも納得できます。

色々と書きましたが、よくわからないけど面白いものになっているのはすごいことです。

そんなこんなで、物語を追いたい人は予め背景を色々勉強してから行けば良いと思いますが、わからなくても面白く観られる一作です。とにかくマチルダの魅力がすごいので、それだけでも観る価値はあると思います。

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