障害の辛さの一端を疑似体験できる一作

 

「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」は『悪の華』などで知られる押見修造さんの同名漫画を原作とした実写映画。「幼な子われらに生まれ」などの南沙良さん、「万引き家族」などの蒔田彩珠さんのダブル主演作品である。監督は「増山超能力師事務所」などの湯浅弘章さん。脚本を「14の夜」などの足立紳さんが担当している。

ストーリー:大島志乃は自己紹介を練習して行くが、自分の番になると、名前が言えなくなってしまう。友達を作ろうとするが、上手くいかない。そんなある日、ひょんなことからクラスメイトの加代と話す機会があった。志乃は加代のうちに行き、加代が音楽だが歌が下手であることを知る。そして、加代がギターを弾き、志乃が歌うグループを作ろうという話になった。

 

面白かったかと言われると微妙でした。
ぶっちゃけ。

ただ、観て良かった映画ではあったと思います。
志乃の気持ちに寄り添うことで、障害(と呼んでいいのかわからないですが)の辛さの一端を疑似体験できますし、周囲の人間の反応をしてしまうことがあるかもなぁ、と思わされました。

お調子者だけどその勢いの方向が全力で間違っている菊池というキャラクターが出てくるのですが、彼の存在も非常に効いていたと思います。いるよな、こういうやつ。っていう。ただ、菊池のように、余計なことを言って人を傷つけるようなことは、日常でも起きてしまうこと。今作での菊池の描き方はそこそこ極端なので、観客は「こんなこと言わないしやらないわ」って思いがちなんですが、実際には程度の差はあれ、菊池みたいに人を傷つけることはあると思います。

また、今作を観て、この障害について理解したと思うのは危険かな、とも思います。世の中にはいろいろなタイプの人がいて、このパターンに当てはまらないタイプの障害というか、生きにくさを覚えている人ももちろんたくさんいると思うんですよね。それを、「こないだ志乃ちゃん〜で観た」みたいな感じで十把一絡げにしてしまうのは、無意味な摩擦を生んでしまうと思います。

そういう意味で、今作の志乃ちゃんが結構嫌なやつというか、聖人として描かれていないのは良かったと思います。
どうしてもわかりやすく、「いい子」が「障害」によって「かわいそうな状態になっている」って構図の方が気持ちがいいですからね。じゃあ性格が悪い人は放っておいていいのか、って話になっちゃうし。

ただね、それがリアルだし示唆に富んでいるからと言って、観ていて楽しいか、って言うとまた話は別なんですよね。だから難しいとは思います。この辺のバランスが。

というわけで、非常に考えさせられることが多くて良い映画だったと思います。ただ、観ていて楽しい映画かって言うと、必ずしもそういうわけではなく、個人的にはそんなに好きではなかったです。でも、観て良かった映画です。興味のある人はぜひ。

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