自分のことを、少し紹介します。
1949年生まれ、民間の勝手研究者です。どこに雇われてもいない、なんのヒモもついていません。収入はカツカツでいいから、とにかく自分にとって切実なことを掘り下げるのが生きがいでした。自然に、教育と経済の研究が中心になりました。「学校に行かなくて好きなことをするホームスクールの教育効果は高い」とか「ベーシック・インカムは、全体の経済をよくする」というようなことを言っています。
私塾もしています。いま、経済のことを教えている生徒が二人います。コロナウイルス対策で、国民全員に10万円支給するという話が話題になりました。
私:: みんなに10万円ずつ配ると、全部でいくらかかるか?
生徒: ええと、電卓、電卓。
私: おおざっぱなことなら、暗算で一瞬でできるよ。日本人が1億人として、それに10万円ずつだろう。
10万円×1億人
万かける億で兆だから、10兆円。まあ、そのくらい。
生徒:(そう言われても見当がつかない、という顔つき)
私: 毎年の税収がどれだけかというと、2019年度が約60兆円。最近で少なかったときが、リーマン・ショックのときの39兆円。今年は、このとおり、経済が麻痺しちゃってるから、それよりもっと少ないんじゃないかな。
生徒: それでさらに10兆円出すのきついね。消費税を上げたら?
私: それだと、イッテコイだよ。取られて貰うから、生活楽にならないよ。
生徒: そうか。じゃあ、お金足りないじゃない。
私: そうなんだよね。ところがだよ、いままでずっと足りないのに、なんとかなってるんだよ。去年の予算なんか、105兆円の支出だった。60兆円の税収だったのに。
生徒: 赤字国債っていうやつでしょ。
私: その赤字国債で、ずっとなんとかなってきててね。
生徒: 今度もなんとかなる。
私: か、どうか、というのを一緒に考えようということなんだ。
国債は、買ってくれる人がいなければいけないんだ。いま、どういうところが持っているかというと、こうなってる。
令和元年12月末 財務省資料による
生徒: 一番多いのは日本銀行。日本銀行って、お札を作ってるところでしょ。
私: そう。作れる。
生徒: じゃあ、問題ないじゃない。お金を作れるんだから。
私: でも、法律で日銀が国債が買うのは禁止されてる。
生徒; どうして?
私: それだといくらでもお金を作って国に渡せるから、過去に苦い経験があるんだ。日本が戦争をしていたとき、日銀が政府の国債を買って戦費をまかなった。戦争のあと、すごいインフレになった。そんなような例が、世界各国にあるんだ。
生徒: でも、このグラフで、日銀がたくさん持ってるじゃない。
私: いったん、銀行が買うんだ。それを日銀が買い上げる。
生徒: じゃあ、直接買うのと同じことじゃない。
私: 同じだねえ。
生徒: 銀行は、国債を買ってくれる人を見つけるの?
私: いいや。自分で持っているお金で買う。
生徒: それは資本金で?
私: 銀行が自分で運用しているお金で買うんだ。資本金も含めて、皆様から預かっている預金や発行した社債なんかを、みんなまとめて運用している。
銀行が日銀に口座を持っているんだ。いま、ぜんぶの銀行を合わせて500兆円くらいある。
生徒: 利息だけですごいね。
私: ところがなんだよ。この500兆円は当座預金。つまり利息のつかない預金。
生徒:じゃ、持っててもしょうがないじゃない。
私: 日銀に国債を売ると、この口座に代金を振り込まれるんだ。だから、増えちゃう。
生徒: 引き出せばいい。
私: その引き出す方法が、現金で、つまり1万円札でもらうしかないんだよ。1兆円引き出したとすると、ええと1万円札1枚がだいたい1gだから、(暗算を試みるが無理だった)1兆円で100トンか。金庫がないし、決済にいちいち持ち運ばなければならないし。
生徒: 他の銀行に預けたら?
私: うん、それはできるけれど、日銀にある銀行口座同士で送金するから、銀行全体として日銀口座にある量は変わらない。
生徒: 利息のつかないお金を500兆円持ってる。じゃ、どうして、利息のつく国債を日銀に売っちゃったの?
私: そこなんだ、まさにそこなんだ。これからの国債がどうなるかを予想するのに、ものすごく大事なところなんだ。
なぜ銀行が国債を手放したかというと、日銀が、国債を持ち続けているより有利な値段を呈示したんだ。利息をもらっているより、お得ですよって。それで売ったんだ。
グラフを見てね。これは、銀行とか、信用金庫とか、預金を扱っているところが持っている国債のグラフ。一番高いところで、300兆円を少し越したくらい。グラフが右のほうで急に下がっているでしょ。これが、日銀に売って減ったぶん。買っては売ってたから、このグラフ以上にたくさん日銀に貯まった。
生徒: じゃ、まだ、まだ、これから銀行が買って、日銀が買えばいいのね。
私: とうぶん、やれるとは思うけどね...。いろんな要因があってね。
とりあえず、政府が資金の調達はできると思うけれど、あとがたいへんなんだ。
生徒: 利息を払わなければ。
私: それもあるけど、もっと切実なことがあってね。
それはね、政府が資金を手に入れるかわりに、国債という証券が残るでしょう。この国債は、「いつでも、売買できます」っていうのがウリなんだ。だから、資金を固定されたくない人も国債を買ってくれる。毎日、ものすごい量が売買されている。そこで、国債の値段が値崩れしたら、「ハイ、それまでよ」なんだよ。
生徒: ハイパーインフレや、預金封鎖になるの?
私: そういう形ではないように思う。長く続くジリ貧、の可能性が大きいかなあ。だけれど、よくわからない。
とにかく、こんな事態は歴史上ないんだよ。どうなるか、誰にもわからないんじゃないのかなあ。
昔のテレビ番組で、「あなたはミステリー・ゾーンにいるのです」ってのがあったけど、そんなものかなあ。
生徒: すごいね。
私: うん、いま、歴史が作られているまっただ中ね。