子どもが学校に行きたがらないとき、「いったん休むと休みぐせがつくから、頑張って行かせなければいけない」ということがよく言われます。

 休ませると、ほんとうに「休みぐせ」がつくのでしょうか。

 私塾をし、子育て相談をしていて、実例にたくさん接しています。学校を休んだからといって「やすみぐせ」がつくようなことはないです。実際に子どもを休ませると、たいていは、1日ないし数日休むと、元気になって登校します。

 

 ある小学2年生は、言われたことをまじめにこなそうとする子です。体育祭の練習の時期に「疲れた。休みたい」と言い出しました。親は、「休みぐせがついたらたいへん」とは考えませんでした。「ゆっくり休みなさい」と言いました。けっきょく、金曜日に休んで、週末をゆっくり過ごしたら、月曜には元気になって登校しました。

 大人が会社に行っている場合と同じなのです。疲れがたまっている。思い切って休養を取る。しばらく休むと疲れもとれて、また会社に行きます。

 

 でも、ちょっと学校を休むと、それがきっかけでそのまま学校に行かなくなるケースもあります。それは「休みぐせがついた」と言うより、それまでが無理に無理を重ねていた、ということなのです。

 

 ある中学1年生の男の子は、明るい学校生活を送っているように見えるし、成績も悪くない。ところが、実際は、明るくひょうきんに振る舞っているのにあまりウケない。学級活動も一生懸命やるのに、先生に認めてもらえない。クラスメートからは軽く見られていて、突っ込みやいじりの対象にされています。それを、なんでも笑いを浮かべてやり過ごしています。家に帰れば、どっと疲れが出てきて、ゲームに逃げ込む。やがて朝起きられなくなりました。医者に行ったら「起立性障害」の診断でした。いったん学校を休んだら、それからはもう頑張りきれませんでした。

 

 これを「休みぐせがついた」と言うのは、あまりに残酷です。中学特有の、みんなが認められずに足掻いている体制の中で、もみくちゃにされただけです。中学には、無理に無理を重ねて、自分が無理していることにも気が付かない子どもたちがたくさんいます。その子たちがついに自分の苦痛を感じられるようになると、もう学校に行こうにも、身体が動かないものです。

 

 大人の社会では、有給休暇もあります。最後は会社を辞めるという手段もあります。ところが、義務教育学校では病気と忌引き以外は、すべて「怠け」や「弱さ」です。

 日本の学校には、まだ戦前の軍隊みたいな体質が残っています。短期だろうが長期だろうが休養が必要になっていることを、「休みぐせがつく」として認めようとしないのです。

 

(信濃毎日新聞2019年10月23日号「コンパス」欄に掲載されたものに加筆)