銀行って、不思議なところなんだ。

 銀行は、たくさんの人たちからお金を預かって、そのお金を企業に貸しているところ。たいていの人はそのように理解している。

 それが違うのかい、って思うでしょう。
 国は、たくさんの人から税金を集める。集めたお金を社会保障、外交、公共事業などに使っている。それは確実なことだ。
 保険会社は、たくさんの人から保険料を集める。集めたお金を、事故に遭ったり病気になった人に保険金として払う。それは確実なことだ。
 それと同じように、銀行がたくさんの人からお金を集めて貸し出しをしていることは確実なことだ、....とは言えない。

 お金は銀行で作られている。
 銀行は、預金を集めて貸し出しをしているのではなくて、貸し出しをすることで預金を作り出している。貸し出した金額だけ、相手の預金口座に数字を書いているのだから。
 ええっ、そんなことして、かまわないの?
 かまわないんだ。「銀行の信用創造」という、れっきとした名称があるくらいだ。

 バブルやデフレのことを理解したいとき、この仕組みのことを知っていないと、なかなか何が起こっているかがわからない。
 銀行や企業が儲けたい一心でお金を作ってしまうから、バブルが起こる。
 今のデフレがなかなか解消しないのは、日銀が金利をいくら下げても、儲かる投資がないときには企業はお金を借りようとしないから、流通しているお金は増えないということだ。
 経済というのは、人間の行動の積み重ねでできている。難しい経済理論を使うより、人々がこう行動するからこうなる、ということが理解することが大事なんだ。

 お金は銀行で作られている。
 実は、これは誤解を招きやすい言い方だ。銀行は、勝手にお金を作り出して、それでビルを建てたり従業員の給料を払ったりしているわけではない。
 正確に言うと「銀行は、銀行券を作って、借用証を買い取っている」のだ。

 わかりやすい例で考えてみよう。手形というものがある。
 手形は、「いついつにお金を払います」という約束を書いた紙で、つまり借用証の一種だ。手形は、受け取った側にすれば、お金も同然になる。手形をそのまま他人に渡して、決済に使うことだってできる。ただし、そのときは裏書きをして、もしも不渡りになったら自分が払うという保証をしなければならないし、期日までの利息の計算もしなければならない。それは、お中元やお歳暮の品を他の人に回すよりも、いささか面倒なことだ。だから、手形をお金として使いたいときは、銀行に持って行くのが普通だ。
 そうすると銀行は、「銀行券」と引き替えてくれる。つまり、手形を買い取ってくれる。これは期日までの利息の分を割り引いているから「手形割引」と呼ばれている。手形より銀行券のほうが流通させやすいから、利息を割り引かれても、手形を銀行券にしてほしい人がたくさんいるわけだ。

 ここで大事なことは、銀行が手形を割り引くときに、銀行券を渡すということなんだ。そのときに、銀行がお金を作ることができる。
 渡すのは銀行券でなくてもいいんだ。預金口座の数字でもいい。つまり、いつでも銀行券を引き出せる権利のことだ。これは、銀行券を渡すのとけっきょくは同じことになる。

 昔は、それぞれの銀行が、独自の銀行券を出していた。明治初期の「国立銀行」がたくさんあった時代は、それぞれの「国立銀行」が銀行券を出していた。(正確には、デザインは同じで、発行元だけ違うものだったけど) 南北戦争前のアメリカには、小さな銀行がたくさんあったもので、7000種類の銀行券があった。

 

 一つの例だけど、これは明治10年頃、第十国立銀行(山梨)が発行した銀行券。

旧1円札(左)と新1円札(右)

http://mineralhunters.web.fc2.com/yamanashityuginmuseum.html
 明治期の国立銀行券は、資本金の代わりに集めた公債証書と引き替えに発行することができた。これを貸し出しに使って、利息を稼ぐことができた。

 こういうふうに自分のところで作った紙切れを渡せばいいのだから、お金が増えるわけ。

 

 たくさんの銀行券があると、どれが信用できてどれが信用できないかの区別をするのがたいへんだ。今では、たいていの国では、その国の中央銀行だけが銀行券を発行している。日本では、銀行券は「日本銀行券」しか発行されていない。だから、どの銀行に行っても、渡してくれるのは「日本銀行券」か、その預金の数字だ。
 三菱東京UFJも、三井住友も、みずほも、決して日本銀行の支店ではない。にもかかわらず、渡してくれ
るのは「日本銀行券」だ。

 それぞれの銀行が、どうやって「日本銀行券」を手に入れているかを見ていくと、現代のお金の仕組みがよく見えてくる。でも、それにはまたたくさんの説明が必要になるので、また別にまとめさせてください。

 お金は、銀行が借金の借用証を買い取るときに作り出されている。相手の預金口座に数字を書き込むだけで作れる。

 でも、そんなに簡単にお金を作れるならば、どうして銀行は預金集めに一生懸命になるのか、という疑問が湧かない? 銀行マンの方たちは、預金の獲得に苦労されているではないか。

 これは、日本銀行券または
日銀当座預金をどれだけ持っているかで、どれだけ貸し出しをできるかが決まってくるため。ある状況下では、預金を集める必要がある。
 だから、実質的には、銀行はお金を集めて貸しているところ、と理解してかまわない。個別の銀行にとってはそうなんだ。

 ところが、銀行全体としては、銀行貸し出しでお金を作り出している。
 複雑な説明になって申し訳ない。また、いろんな角度から説明します。

 

 

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