―夜光虫― | 花鳥風月

―夜光虫―

私は元ダイバー

色々な海の表情を幾度となく見て来た

穏やかな時もあれば、気が変わった様に荒れ狂う時もある。



簡単に表現すれば、思春期の子供みたいな感情だね



一旦海中に潜ると、世間の雑音は消え、静かな世界。



聞こえるのは呼吸音と自分の心音だけ…


海中の生物達も、異世界からきた生物に警戒を示す


たまに幼魚を守る親魚に見とれたり、
潮の流れになびく海草を見ながら手を休める、このような光景を見ると、さほど地上の光景と変わらない




ある日、夜の海に潜る事になった



初めての挑戦


ライトを片手に潜水開始



夜の海は昼間と違い、より静かで
海底まで闇が降り立っている



「気を抜いたら死んじゃうかもな…」


そんな思いが頭を過ぎる。



潜行するにも周り一面闇、微かなライトの光だけが頼り


海底に着き、手探りで仕事をこなす。



約20分の潜水。



作業が終り浮上



ユックリと浮上していると、海面に近付くに連れ、月の光がぼんやりと見えて来る




手足を動かす度に全身に光が走る
夜光虫だ…




プランクトンの一種で刺激をうけると発光する




私が全身に夜光虫をまとい光に包まれながら、浮上していると魚達も夜光虫を刺激しながら泳ぎ回っている



まるで目の前で花火が上がってるかのよう



とても綺麗だ…
仕事の疲れも忘れ周りの光景に酔しれる






海面に出て見れば、優しく照らす月の光…ゆっくりと波打つ海面…




「今日も何とか生きて帰ったな…」
そう思いながら船縁に腰を降ろし煙草に火をつける…




良く人から言われた…
「夜の海に一人で潜るなんて自殺行為だ、普通の神経じゃ無理だぞ」と…




確かに自殺行為だな


神経の作りが人とは違うのかな?



その時の呼び名は「海蛇」
あまり嬉しくない…



もうダイバーの仕事を離れて二年
最近海が恋しい



もう一度…夜光虫を纏い…
何も考えずに夜の海に身を沈めて行きたい…