澤穂希がスタメン復帰も上昇チーム狭山に苦戦 | 澤穂希選手のホット情報

澤穂希選手のホット情報

澤穂希選手のホットな情報をいち早くお伝えします。

まだ試合勘はさすがに戻ら無いですね」と語る澤穂希の表情は明るかった。3月のポルトガル遠征で良性発作性頭位めまい症を発症してから約2カ月、なでしこリーグ第3節でスタメン復帰を果たした。其れは自身で想定していた45分を超える61分間のプレイだった。

 硬さと緊張と、サッカーが出来る喜びが混じり合った前半。いきなり澤がヘディングでボールを競り合う。気合いは十分だ。ですが、「ソヨンとの中盤での守備のバランスが悪くて……。後手後手に回ってしまった」と澤も振り返るように、前半には、チェックをかけきれなかったり、動き出しが遅れたことで3人に囲まれる場面が見られるなど、本来の“試合勘”を取り戻すまでにはもう少し時間が必要だ。

 28分にはAS狭山の村岡夏希とのヘディングで激突し、頭同士がぶつかり合うシーンもあったが、プレイを続行。後半には、積極的に前線へ飛び出し、GKとの1対1にも恐れることなく突っ込んでいった。

「今はサッカーが出来ることがうれしい。今日の反省を生かして、来週からの試合につなげたいです」と、課題を口にしながらも、やはりその表情にはピッチに戻れたう喜びがにじみ出ていた。

「前半は、良くも悪くも澤が入ったことで、ペースが崩れた。長く試合をしてい無いからお互いにバランスが悪かった。でも、結果的には澤が抜けて2失点して居るので、やはりそこは澤の“影響力”なのかもしれません」(神戸・星川敬監督)

 星川監督は、選手たちには、「澤が戻ったときが、本当の開幕戦だ」と言ってきた。その澤が先発に復帰するまで回復し、「ここからは上がっていくだけ」(澤)の状態になった。後半の15分間はまさに本来の力の片鱗をうかがわせるようなプレイも見られ、次戦へさらに期待は高まった。

 試合は予想通りINAC神戸が持ち前の展開力を駆使してチャンスを造る。先制点は4分。入団4年目にして初ゴールとなった高良亮子のミドルシュートだった。その後、37分にルーキーの京川舞が、53分には再び高良が加点するも、苦しい内容だった。

 とにかく攻めきれ無い。神戸の視点からいえば、「決定力が欠けていた」と成るのだが、其れだけでは無い。狭山の守備意識がすさまじく高かったのだ。

 今年の狭山はひと味違う。やみくもに引いて守るのでは無い。ラインをやや高く保ち、相手との間合いをしっかりとはかる。誰が第1ディフェンスに入るのか、誰がカバーに入るのか。共通認識ができて居るのだ。前節の日テレ・ベレーザ戦でもその守備はベレーザ攻撃陣をイラつかせていた。

 狭山のセンターバックの柴田里美はこう語る。
「お互いにすごく話をするようになった。最終ラインはひとつ前のポジションの選手と。中盤の選手はまたその前のポジションの選手と、と言う感じで、チーム内で話をし無い人はい無い。其れが結果につながって居るとおも居ます」

 狭山はほとんどの選手が仕事をしながらプレイをして居るため、練習時間も限られ、さらに練習場所も定まってい無い。前節のベレーザ戦後には「ピッチがその時間しかおさえられなかったので、これから戻って練習なんです(笑)」(渡邊英豊監督)と、慌ただしく試合会場を後にしていた。

「発展途上のチームだからこそ、求められたこと、やったことが形になっていくことで自信がつくのも早いんです。今、すごく楽しい」(柴田)。

 狭山は開幕から強豪との戦いが続いた。開幕戦、浦和レッズレディースには0-5で大敗。課題を修正して臨んだベレーザ戦では0-3。だが、手応えも少しつかんだ。さらに修正を重ねた神戸戦では3失点するも、2ゴールを加えることができた。

「この3連戦で自分たちは成長出来るって思ってました。ここからは勝点を積み上げたいんです!」(柴田)。一日一日の成長を感じる日々。2012シーズンは狭山にとって転機に成るかもしれ無い。そんな予感を感じさせる戦いだった。

 オリンピックを迎える今年は、女子サッカー界にとってビッグイヤーで有る。けれど、重要なのは、オリンピックでどんな結果が待っていても其れが終わった後のなでしこリーグだ。そこで魅力あふれるサッカーを披露出来れば、本物。必要なのは、見せ物ではなく見る者を熱くさせるサッカー。

 この日戦ったINAC神戸とAS狭山、其れぞれの立場と戦い方は違えども、常勝チームと上昇チームの激しい駆け引きがあった。今年のなでしこリーグは、おもしろいシーズンになりそうだ。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko