僕は昔から勉強は苦手だったが、顔は広かったのでこれまでの同級生の名簿を漁って勧誘しに行き、飛込営業よりは高確率でネットワークを拡張することに成功した。
友達の数は少し減ったが、ネットワークビジネスで換金できない友情なんて文字通り一銭の価値もないので特に問題はない。金にならない友情に価値を見出すほど僕はロマンチストではない。
ホストとしての都合上ロマンチストであるかのように装うことは多いけれど、僕の本質は常に算盤を叩いて可能な範囲で短期的利益を拡大する金銭崇拝者だ。
自分の人脈を使い切った頃合いで僕はセミナー業に乗り出すことにした。有力者の人脈を梃子にして某研究所の肩書きを得て、僕は起業家志望向けの起業支援セミナーやサラリーマン向けの実践的ビジネスセミナーなどを通してネットワークビジネス勧誘を始めた。ネットワークビジネスの素晴らしい所は、僕のようにリソースも学歴も持たない人間でも金持ちになれる所だ。サラリーマン業では何事にも学歴が要求されるが、ネットワークビジネスではそのようなことは起こらない。
金が権力を産み、権力が金を産む好循環に乗った結果僕の地位は順調に上がり、ついに出世できる最高位にまで到達した。ここまで来ると後は寝ていても懐に大金が転がり込んでくる。
この金を生かして僕は名家を買収し、深窓の美少女令嬢と結婚して社会的ステータスを上げながら幸せな家庭を築くことに成功した。
金と権力の力は本当に素晴らしい！ホストをしていただけあり、僕は元々顔と外見には自信があったが、そこに金と権力までついてくれば多少の無茶なら押し通せる。
儲かりすぎて投資先に困ったので、僕は健康食品メーカーを買収して独自の健康食品ビジネスを始めた。
顧客リストを流用して荒稼ぎしたが、儲かりすぎてネットワークビジネス本家から睨まれたので独立することにした。
それ以来、本部への上納金を払う必要もなくなりますます利益は増大した。
しかし、企業運営を始めると税金を払うのが煩わしいので、僕は休眠宗教団体を買収して新興宗教経営を始めることにした。元の宗教団体は仏教と神道の混ざったものだったが、僕はそれにキリスト教とスピリチュアルの精神を混ぜてより現代的な教えに仕上げた。宗教の教義は最近の流行に合わせて組み替えていかなければ利益を増やすことはできない。
この辺りから、僕はゴーストライターを雇って教義や一般的な道徳を平易な言葉で分かりやすく説く本を出版し始めた。
初めは一般出版社からだったが、途中から恐れをなしてか出版を引き受けてくれなくなったので自前で出版社を立ち上げて流通させた。
売り上げは十分なので、売れてないから出版が差し止められた訳ではないようだが、クレームが多かったそうだ。
そんなクレーマーたちも無関係の出版社にクレームを付けることはできても自社系の出版社にクレームを送る度胸のある者は少ないようで、出版社の仕事は平凡かつ退屈なものとなっている。