豚の生姜焼き考 | moritaのブログ

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東京下町グルメ(日本出版社)の洋食店の頁を眺めていて、主なメニューにはビーフシチュー、カニクリームコロッケ、エビグラタン、メンチカツ、ハンバーグ、オムライスとかが名を連ねていますが、豚の生姜焼きを挙げている店は一つもありませんでした。


あんなもの当店の一流シェフが命をかけて作るものではない、洋食店の矜持に似つかわしくないとでも思っているのでしょうか。


私と豚との出会い。

父親の埼玉の実家がまだ建替える前の藁葺きの家だった頃、裏手に豚小屋と鶏小屋がありまして、おまけに山羊なんかも繋がれておりました。

庭にはよく青大将なんかが這っていました。

世田谷ではなぜかアブラゼミばかりだったけれど、夏休み埼玉に来るとミンミンゼミが多く鳴いているのがうれしくて、セミやカブトムシを採っていたmorita少年だったのです。


鶏は生みたての卵を食べさせてくれましたし、まだ湯気の出ている山羊の乳なんかも時々飲んでいました。私が小学生の頃ですね。

他には畑から採ってきた野菜や川で採ってきた雑魚を煮たものだったかと記憶しています。


豚小屋には何頭も親豚が居たし子豚も居たのですが、豚肉を食べたことは一度もありませんでした。

もちろん1軒で豚を処理するのは無理なことだったのでしょうが、あの豚はいったい何のために飼っていてどうやって処分していたのでしょうか?



食肉の三大巨頭は、牛、豚、鶏でしょう、もちろん肉自体それほど多く食べられたものではなかったのですが、子供の頃はほとんどが豚でした。母親の好みと家の経済事情にも影響されていたかもしれません。給食のおかずもほとんど豚でした。


たぶん肉はまだ一般的ではなかったのかもしれません。

昭和30年代、くじらや魚肉ソーセージ、プレスハムくらいしかない頃、世田谷経堂の鈴木精肉店では店先で揚げたコロッケばかりでしたね。

トンカツもメンチカツもあったはずですが、ウチはいつもコロッケオンリーでした。

でもまっ黒いラードで揚げたあのコロッケ美味かったですね。


コロッケは美味しかったのですがあの頃私は豚が好きでなく(肉全部も)、特に脂身が大っ嫌いな少年時代でした。


給食の豚の脂身が食べられず、みんな校庭で遊んでいるのに私一人だけ担任教師の監視のもとのろのろと豚をいやいや食べ続けていたのです。

それが、高校生くらいになると豚いいでないのという突然変異が起きて、大学生になると肉野菜炒めライス、豚生姜焼きライス路線に乗ってしまったのです。





好みの変化は環境にも年齢にも依るものかもしれませんが、学生時代の豚の愛好はいまだに変わっておりません。

スーパーで買う時も部位はロース、バラとか脂ぎったところばかりです。


神田神保町のキッチン南海の生姜焼きとのお付き合いはもう40年近くになります。

生姜焼き単独のメニューが今はないようなのでいつも頼むのはチキンカツ+生姜焼き、略称チキン盛合せ。

年に数度しか行かなくなりましたが、生姜焼きライスにするかカツカレーにするかいつも深刻に悩むのも楽しいものです。





最近は魚系に回帰しつつありますが、若い頃は魚ではなんか損するような気もして日替わり魚定食と日替わり肉定食がある場合、迷わず肉定を選んだものです。

肉料理といっても、ステーキ、焼肉、焼鳥、とんかつ、ハンバーグ、すき焼きとかあまたありますが、貧乏なサラリーマンが昼に常食するのは豚の生姜焼きということになります。


高級(高価)な店ではあまり登場しなくて、低級(安価)な店での定番でありました。

だから美味くないかと言ったらまったく逆でありまして、たぶん伊勢志摩サミットのディナーには出なかったと思いますがこれこそ日本文化の代表なのです。

私の場合はいい豚ではなく脂身含有率50%以上のバラ細切れのものが好きですね。


なんて思いながらとある雑誌をめくっていたら、とんでもないページを見てしまいました。

右頁は5000円、左頁は500円、

何がどう違うのじゃ?


一方は銀座の店、他方はおそらく大田区馬込あたりの店なのですが、10倍の値段差は家賃以外のあやしい魂胆があるとしか思えません。


ものの比較において、高いほうが良いという固定観念とか本能なるものが選択の動機になりがちですけれど、5000円とは強気ですな。

肉は鹿児島黒豚のリブロース、醤油ダレは手間ひまかけた特製だということ。

あっそう、としか言えません。

タレとかつゆとかはどこのラーメン屋でも立ち食いそばでも手間ひまかけているものです。


豚生姜焼きなんて高級を目指すものではなく、金のない客のためにあるものなのです。

金のなさそうな若者が食べてこそ似合うものなのです。

5000円の店はちょっと勘違いしているとしか思えません。