久々に本の感想でも。
”世界が完全に思考停止する前に”/森達也
そんなに本を読まないので、正直「森達也」とだけ聞いても恥ずかしながら誰かわからなかった。
松本サリン事件を教団内部から描いたドキュメンタリー=「A」の作者だと聞いてやっとピンときた。
今度見てみようと思う。
本書で彼が口癖のように使う「麻痺」という言葉。
実に的確だと思う。
「オーバーステイ」→「不法滞在者」
「日米安保条約」→「日米同盟」
「攻撃」→「テロ」
本当に些細なことに思えるこの変化。
何かが着実に「麻痺」してきているのかもしれない。
僕も含め、「麻痺」している人はそのことになかなか気づかないし、気づきたくない。
現実と直接対峙することはとても労力がいるし、ゆるぎない心構えがいる。
この本は、「麻痺」してることに気づかせるだけの説得力、そのままではいけないという強い願い、それらが濃密に凝縮された特効薬のようなものだ。
普段メディアに触れていて感じる、「ちょっと待てよ。何かがおかしいぞ。」
この「何か」を、今までどのコメンテーターが放った言葉よりも深く掘り下げ、的確に表現してくれている。
現在、そして未来のマスコミ関係者には特に服用しておいて欲しいと思った。
「ねえみんな、気を悪くしないで欲しいのだけど、やっぱりどう見ても、王様は裸だよ。」
童話「裸の王様」になぞらえてそう放つ彼の、ゆるぎない、冴え渡った視点は本当に見習うべきところが大きい。
この視点には松本人志にも通じる部分を感じた。
その一方で、このように高い意識を人々が常に意識して持ち続けることの難しさも感じた。
著者は常にこのようなことに意識を向け、そこから収入を得ているのだから、これほどのモチベーションを維持できるかもしれない。
しかし、とかくこの世は忙しい。
政治学を学んでいてたまに思うが、この「忙しさ」がある限り、今の日本の流れは変わらないように思えてしかたがない。
政策に関して十分に吟味し、自分なりの観点から考え抜く時間がないから、政治家を人柄で判断しようとする。
今後重要な意味を持つであろう法案が通ったことに気づく暇さえ無く、後になって「なぜこんなものが通ったのか」と嘆く。
誰しもが自分の生活にいっぱいいっぱいで、立ち止まって考える暇もない。
元来無意識の意味を含むはずの「麻痺」だが、そういった忙しい人々にとっては、時に意識的にでも陥ってしまいたい感覚なのではないだろうか。
「考えなくても済みそうなことは、できる限り考えたくない。」
これは個人差はあるものの、人間誰しも抱く感覚だと思う。
現実世界のあらゆる事象にまんべんなく注意を払っておくなんてことは、誰にもできっこない。
でも、何を考えて、何を考えないでおくのか、その判断基準については、しっかり考えているだろうか。
考えないでおいた部分から「麻痺」が進行することを、自覚できているだろうか。
だからこそ彼の存在は、今の日本に絶対に必要だ。
そして、この本を読まないという選択は「麻痺」の進行を早めると、僕は思う。
Choice is yours.
