3月24日 日曜日。






今回は6時からスモールメダルセレモニーの整理券を配布するという。

大概すごい人が集まるだろうし、いったい何時に行けばいいんだ?

でも、少しは睡眠も取らないと。

ということで、この日も4時に起き、5時に出発。


しかし、私が到着した時はすでに、並ぶ人の列があの巨大なアリーナをもうじき一周するんじゃないかというところだった。

整理券は3000枚だという、入れるんだろうか?

開始時間の6時を過ぎても、列はほとんど動く気配なし。

整理券を配るだけなら30分くらいで終わるだろうと思ってきたのに、予想と違う。

この日は特に寒くて、待つのがつらかった。

足先が痺れて感覚がない。

足踏みしたりして、少しでも身体を温めることを心がけた。

ようやく朝日が差してきて日差しを受けた時は、太陽の恵みを全身で感じた。









抽選を終えて戻ってきた友人を見つけ、声をかけて整理券配布がどうなってるのか尋ねる。

どうやら、会場をAからGの7ブロックに分け、希望のブロックごとに並び順の抽選をしているらしい。

ブロック選びと抽選を一人ずつやってるから、こんなにも進まないんだ。

みんなを安全に入場させるための工夫というのはわかるけど、この寒さの中、これはキツイ。

列がようやく進んだところで、アリーナの陰から見えた富士山の美しい姿に少しだけ癒される。





私が抽選場所にたどり着いたのは3時間半後。

もう、前方のA、Bブロックは残っていなかった。

向かって右側前方のCブロックか、
最後方だけど着席できるGブロックか。

前の方になんて行かなくてもいいや、
「私」が最優先!

ゆっくり座って見よう。

Gの箱に手を入れたけど、手がかじかんで抽選券がつかめない。

ようやく引いてみると、並び順は400番台だと。

あー、もう何のためにこんなに並んだんだか。

席の選択の余地なんてほとんどなさそう。

それでもスモメダを見られると決まっただけいいか。

一刻も早く暖かい場所に行きたい。








セレモニーは12時45分からなのに、再集合時間は10時45分だという。

もう、あんな場所でいつまでも並ばされるのはごめんだ。

みんなが入場し終わった最後の最後に行こう。

余った場所で見られればそれでいいし、入場を断られたらそれでもいい。

「私」を守ろう。

そう決意して、暖かいレストランとカフェをハシゴしてリラックスに努めた。








12時ごろに会場前に戻ると、最後のGブロックの人たちの列が今まさに「入場を開始」しようとしていた。

10時45分に再集合して、今、入場開始⁈

みんな、早朝から並んでた上に、またあの寒い日陰でこんなに長い時間待っていたんだ。

日本人てなんて忍耐強いんだろう。

でも、あんまりだ。

なんだか泣きそうになった。

並んでいたみんなに敬意を払いつつ、列の最後尾に着く。




会場に入ってみると、私は長い列の最後尾で入ったのに、その割にはまだ席がかなりある?

(最終的には満席になったんだけど)

自分が指定されてるGブロックの中でも、公式練習の時と同じあたりの席がまだ空いてるじゃん、あちらへ行こう!











着席したのはセレモニー開始の15分前。

入場にこんなに時間がかかるとは!

それを見越した整理券配布開始時間だったのか。

そこは運営側の見通しが正しかったと言えるけど、隣の人はずっと並んでいて風邪をひいたのか、体調が悪くなった様子。

ホントにお気の毒だった。





でも、席に着いてみたら、ステージからは遠いけど見晴らしは最高!

ステージが直で見えて、視界を遮るものが何もない。

ふと、
「ここから動画でスモメダの様子を撮影したら、来られなかった人にも届けてあげられるんじゃない?」
というインスピレーションが降りてきた。

今回のスモメダはライストもなく、メインアリーナでの中継すらないらしい。

そっか、そういうことだったのか。

私がここのブロックを選ぶことになったのは、
こういう展開で余力を残してこの席に来たのは、

もしかしたらこれを撮影してみんなに届けるためだったのかもしれない。









いつも、彼の言葉はメディアでの切り取られ方によって、いろいろ批判の声が上がるらしい。

(まぁ、一部だけ切り出すとびっくりするようなことを、いつも言ってるけど笑)

だったら、文脈や言葉が発せられた状況がわかるように、最初から全部撮影してみんなに届けよう。

アイスダンスのスモメダは10分強で終わってた。

清塚さんのコンサートのアンコールの時に、手でスマホを支えて動画撮影したこともあるし、なんとかなるでしょ。








13時30分、ようやく男子シングルのスモールメダルセレモニーが始まった。

とにかく全部撮影しようと構えたけど、ステージが横長なのに初めはスマホを縦に構えちゃってたから、これじゃ後で見る時に見にくい。

ヴィンスが入場したところで気づいて、慌ててスマホの向きを横向きに変える。




ヴィンス、ゆづ、ネイサンの順に入場し、記念品授与と記念撮影が行われる。

授与された時計の箱をのぞき込んだり、ヴィンスのマイクをチェックしたり、なんだかちょいちょいしてるな(笑)

楽しそう。

そのあと、選手一人ずつにインタビュー。

アイスダンスの時のようにさらっとインタビューなのかと思ってたけど、さすが人気の男子シングル、そんなワケなかった。

うう、スマホを支える手がそろそろ限界。

でも彼が
「来られなかった人にも声が届くといいんですけど」
なんて言うから、

やっぱりそういうことだったのか。

このまま撮り続けてみんなに届けるしかないじゃん!






もう、腕も肩も限界を超えてたけど、なるべく意識をステージに向けて肩や腕のことを忘れるようにして、なんとか最後まで撮りきった。

結局、全撮影時間は約22分!

あー、もう、身体がどうかなっちゃうかと思った。

全身がガクガク。

でも、やりきれてよかった。

君の言葉は必ずみんなに届けるから!















15時からエキシビション。

これでもう最後なんだなぁ。

今回はどのカテゴリーもこの上なく素晴らしい試合だった。

こんなにも熱い大会に出会えることは、そう度々あることじゃない。

名残惜しく、World  Figure Skating Championships 2019の余韻を楽しむ。











刑事君のウワサのジョジョ、ようやく見られたよ。

すっごい運動量と、そんなにできる人だったんだ⁈というくらいの観客アピール(≧∀≦)

インタビューではシャイなのにね。

こんなパフォーマンスができるんだから、次の試合プログラムはイメージ変えてくるかな(笑)





トゥルシンちゃんはデニス・テンに捧げるプログラム。

今まではクールに見えてたトゥルシンちゃんだけど、このエキシビプログラムを見て、実はこんなに感情豊かだったんだとイメージがひっくり返って、彼女が大好きになった。

デニスの魂とカザフスタンの皆さんの心が安らかでありますように。






しょーまはSee You Again。

今回、思う結果は出せなかったけど、頂点を目指すと決めて力を尽くしたしょーまのことを、きっとたえちゃんも誇らしく見守ってるよ。

この経験は必ずこの先につながる。

自分を責めないで、また頑張って。







りかちゃん。

透明感のあるボーカルに乗せる美しいプログラム。

今回のほろ苦さが一層、このプログラムに美しさを添えていると思う。

今の気持ちをしっかり味わって、また進もう。







ゆづ。

この日、この場所のために
生まれたとしか思えなかったプログラム。

国別対抗戦のエキシビションでこれをやるには、あったかくなりすぎてて不向きかなぁ、なんてつまらないことを考えながら、

桜の花びらを舞い上げる一陣の風のような君の姿を、ただただ眺めていた。

でも、そっか、
君はいつも「今、ここ」を大切にしてるけど、

今回はこれがホントに最後だと思って
精一杯演じてくれたんだね。

万感の思いを込めた演技、

とても綺麗だった。







ネイサン。

大学とスケートだけでも忙しいのに、スケボーで学校に通ったり、NSXの運転体験をしたり、トレッキングをしたり、君は普段の生活もすごく楽しんでるよね。 

Instagramで見せてくれる、君のプライベートの充実ぶりは素晴らしい。

めっちゃカッコつけた写真をアップしておきながら「nathanwchen was probably thinking about ramen」なんて自分でコメント付けてるのを見たときは吹いた(≧∀≦)

そんな素顔が見える、10代らしい弾けるパワーのプログラム。

いろんな体験が君の演技の幅を広げ、強さになってる。

これからの君がどんな風になるのか想像つかないけど、「今度は絶対叩き潰してやる」って燃えてる人がいるから、油断しないでね!(笑)
















エキシビが終わると、速やかに東京駅へ向かう。

一刻も早くスモメダの様子をみんなに届けたいから、新幹線の中でYouTubeにアップするべく操作をしたけど、うっかりトンネル地帯に入ってしまい、作業がなかなか進まない。

結局、30分以上も時間がかかった。

家に帰ってからやればいいとわかってはいたけど、でもどうしても早く届けたかったんだから仕方ない。

ようやくYouTubeにアップするとツイッターにリンクさせ、発信力のある友人たちに託した。








もう、その後は何もできなかった。

いつもなら帰りの道中から観戦日記を書きはじめる私だけど、帰宅するとそのまま倒れこむように眠った。




でもこれで、

君の願いを叶える手伝いが
私にもようやく、ちょっとだけできたよ。













こちらが、私が撮影したスモメダ動画です。

手で持ったスマホでの撮影ですので、画面が動きますし画質も良くないですが、セレモニーの様子は一望できますし、音声だけでも楽しんでいただけると思います。

他にももっと鮮明な映像でスモメダの全行程をアップされてる方もいますし、私の自己満足なんですけど。

彼らの心からのメッセージを届けるお手伝いをさせてください。



























次の日からは仕事に戻った。

疲労がひどくて、仕事はなんとか乗り切れたけど、観戦日記を書く気にはとうていなれなかった。





日常生活に戻ってみると、前日までのことがまるで違う世界の話のような気すらした。

でも、身体に残る感覚は、私が経験した日々がたしかに存在したことを教えてくれた。

























いつだって

試合は一瞬で終わってしまう。



あれほど集中して見ていたのに

幻だったかのように

演技の記憶は儚く薄れていく。




残るのは

極限の緊張と集中で演技に向かう君の姿と

見守る全ての人と一体化し
君を護り、押す力であった自分の感覚
  


しっかり決めた4Loと鮮やかな4T3A

これこそが「羽生結弦」だと世界に魅せつけたコレオ



君の情熱の全て

アリーナを満たす大歓声








そう、

一年前のオリンピックでは分離感に激しく悩んだ私だったけど、

今回はみんなと一つだったよ。





















どんなに目を凝らして見つめたって

精巧なデジタル映像にはかなわないし



どんなに全てを覚えていようとしたって

ポロポロと記憶はこぼれ落ちていく。



だから今回は

全身で感じて

感覚の記憶を自分に刻み込もうと決めていた。






視覚
聴覚
触覚
前庭覚
固有受容覚
空間認知


全ての感覚を立てて

「一番君を体感できる」と自分が信じる場所で6日間、君を見つめた。







ふいにクルッと背を向け、滑らかな曲線を描いてジャンプコースに入っていく後ろ姿

正確に再現される、各ジャンプの軌道

テイクオフでキュッと構える一瞬の集中

氷を掴むエッジ音

軸の細い回転と、高く幅のある美しい空間軌道

ドシュゥッという音と共に現実に戻される、
着氷の衝撃とランディングの美しさ

フリーレッグの流れ

右のこめかみあたりで指をクルクルッと回し、理想のジャンプのイメージを再現して身体に叩き込んでいく姿

自分の内側で思索し続ける厳しい横顔

何度も何度も、
執拗なまでに繰り返される練習風景





胸いっぱいに風を受けて、心地好さそうにスケーティングする姿

たった数歩でMaxに達し
疾走する爽快なスピード感

余計なエッジ音が何も聞こえてこない、
滑らかなスケーティング

ゆっくりと腕、背、脚を伸ばしていく
スパイラルの優雅さ





今もまだ、

それらの感覚は

私の中にくっきりと残っているから


















バンクーバーを捨てて
ロステレコムを君が選んだときは
とても辛かった。


でも今回は
君の命を削るようにして
全力を見せてくれたね。


こんなこと言ったら叱られそうだけど
最高に幸せだった。


ありがとう。






















君にまた会える時を

楽しみにしてるね。