四時間ぐらいで書いた艦これ二次創作(SS) | AERナントカ

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「これより、本作戦の編成を発表する。まず、第一艦隊は秘書艦である私、長門が旗艦を務める!」
 早朝、作戦会議室に集められた艦娘たちの間に、長門の声と緊張とが相交えて流れる。彼女は資料に目を落とし、淡々と編成を読み上げた。
「第二艦隊旗艦は、北上!」
「ええ!? アタシ~?」
「北上さんすごいです!」
 これまで旗艦を務めたことのなかった北上は寝耳に水とばかりに、呆けた顔をしていたが、嬉しそうに腕にまとわる大井を見ているうちに実感が湧いたのか、はにかんで、それでいて心強い顔に変わっていた。
「次の作戦は、雷撃戦の支援にかかっていると言っても過言ではない。よって、重雷装巡洋艦に重きを置いた提督の判断だ。初の旗艦となるが、よろしく頼むぞ」
「了解! 重雷装巡洋艦北上、がんばっちゃうよ~」
「期待で胸がいっぱいです! 北上さん!」
「ふふふ~」
 北上は誇らしげに笑ってピースサインを見せた。
「次、第三艦隊旗艦、大井!」
「えっ!?」
 子供の様にはしゃいでいた大井の目から光が消え、北上の右腕を抱きかかえていた両腕がだらんと下がった。
「大井っち、大抜擢じゃん~やったねぇ」
「重雷と言えば、お前たちだからな。雷撃による支援、期待しているぞ!」
「は、はい……」
 違う艦隊にいれば、離れ離れになることも必然。そんなことは、着任したばかりの駆逐艦の娘でも分かることであった。


 夜もどっぷりと更けた、作戦会議室。そこには北上と大井、そして長門の三人だけがいた。
 本日の作戦は大成功のうちに幕を閉じた。敵駆逐艦を北上大井率いる支援部隊が一掃し、敵空母を長門らが間髪いれずに一気に沈めるという完全勝利であった。
 本作戦に参加した艦娘たちは、今日の勝利に酔いしれ、また疲労にもよって、早々に眠りについていた。
 この三人だけを除いて……
「長門さん、今ここでこうしている意味……分かりますわよね?」
「大井、これが秘書艦の私にすることか?」
「秘書艦であるかどうかなんて、関係のないことですわ。いえ、秘書艦で『あったから』こそ、こんなことになったのかもしれませんね」
 大井は怒りと悔しさと、そしてどこか恍惚さも備えた瞳で、長門を文字通り『見下した』。長門は、手足を拘束され、床に倒れこんでいた。
「私と北上さんとの仲を切り裂いた罪、貴方に償ってもらいます」
「艦隊は別々だったけど、仲は切り裂いてないよねー」
「私には、引き裂かれたも同然なんです!」
 大井が声を荒げた。
「くっ……それは提督の指令があったとはいえ、すまなかったと思っている……」
 何故か長門は、大井の言っていることが理解できているようだ。
「提督の指令? すまなかった? そんなことで私と北上さんの傷が癒えるとでも思っているんですか!?」
「大井っち~アタシはダメージゼロだよー」
「北上さんは甘いものでも召しがって、見守っていてください!」
「そうする~」
 北上は茶色い紙袋に入ったかりんとうをモサモサと食べ始めた。
「これから長門さんには、私たちと同じ苦しみを負っていただきます」
「苦しみ……だと?」
「そうです、これは復讐です!」
 大井はすっとポケットから、二台のスマートフォンを取り出した。
「まず私のスマホから見ていただきます」
 すっと、大井が指を動かすと、入渠ドッグ(艦娘たちのお風呂場的な場所)が映し出された。そこには本日の作戦において非番であった七、八名の艦娘が集まりだしているところであった。
「北上さんを盗撮するためにつけたウェブカメラからのリアルタイム画像です。まさかこんなところでに役立つなんてね」
 ふふっ、と大井は悪態をついた。
「大井っち~それアウトだよ~」
「ありがとう、北上さん」
 大井は感謝の言葉を述べた。理由は不明。
「いったいお前は何を……まさか!?」
「その通りですよ、長門さん。ほら、ご覧になってください」
 様々な艦種の中、一人長門に似た背丈の艦娘の姿が映し出された。
「陸奥!!」
「そうです、長門さんの妹艦にあたる、陸奥さんですね」
 画面に映し出された陸奥は、身辺のものを脱衣カゴに入れているところであった。
「あ、ちょっと服を脱ぐところを見るのは不謹慎なので、一旦スマホ切りますね」
 大井がスマホの画面を暗転させた。
「アタシの思ってた復讐と違うよ~もしかしたら健全なヤツかもだよ~って私を盗撮しようとしていた時点でやっぱりダメだよ~」
「北上さん……後でゆっくり……ね」
「大井っち、話通じない~」
 そんなこんなで五分ほど経過した。
「そろそろいいかしら?」
 恐る恐るスマホを立ち上げると、そこには誰もいない入渠ドッグが映し出された。
「よかった、みなさん入渠されたようですね」
「ん……ちょっと陸奥の発育にも興味があったのだが……」
「不潔です!」
 ぺちっと、長門は大井に平手打ちをされた。さすが戦艦の装甲だけあって、ぺちっ、だけで済んだ。ぺちっ。
「大井っち~かりんとう終わっちゃったよー」
 いよいよ北上も飽きてきた模様だ。
「戸棚に芋けんぴがありますわ」
「取ってくるね~」
 そそくさと、北上はおやつを取りに行った。
「さて、邪魔者もいなくなったところで、復讐のラストステージといきましょうか」
「慕っている人を『邪魔者』て」
「ふん、その減らず口もここまでですわ。私、先程陸奥さんのスマホにもちょっと仕掛けをさせてもらいましたのよ」
「何……陸奥? 陸奥だと!?」
 長門さん、ワクワクドキドキ。
「今からこのもう一台のスマホ……長門さんのスマホから陸奥さんに電話をいたしますわ。けれども、陸奥さんスマホは……」
 大井の顔には、これまでにない邪悪な笑顔が浮かんだ。
「着信音を光GE○JIの『パラ○イス銀河』に変えてありますわ!」
「大井貴様あああぁ!」
「誰もいない脱衣所で鳴り響く、『パラ○イス銀河』。理解できるであろう、戦艦・正規空母クラスは失笑。重巡・軽巡洋艦あたりは、ニヤニヤ。そして駆逐艦! 世代じゃないこの娘たちは陸奥さんに聞くでしょうね! 『この曲、誰の何ていう曲ですか』ってねぇ!」
「やめろ! 頼むやめてくれ! そんな辱めだけは耐えられない!」
 大井に駆け寄る長門。手足は特に拘束されてなかったようだ。ノリのいい長門さんだ。
「光GE○JIをそんな風に使わないでくれ!!」
 姉は、妹より二世代ほど前のアイドルグループを選んだ。
「それなら私の言うこと……きいてくれますよね?」
 長門はコクリ、と頷いた。


「大井っち~戸棚探したけど、かりんとうしかなかったよ~」
 先程と同じ茶色の紙袋をがさごそと漁りつつ、作戦会議室に戻ってきた北上の前に長門が立ちはばかった。
「ん? 長門っちもかりんとう欲し……」
 その長門を前にして、北上は呆然とした。
 そこには、北上・大井と全く同じで、さらにちゃんと長門サイズにあつらわれた深緑の『セーラー服を着た長門』がいた。
「あ……アタシは、軽巡北上、よ、よろしく……」
 顔を真っ赤にした長門が、つっかえながらも北上のセリフを言った。
「なにこれ?」
「そのなりで、軽巡ですって? 笑わせないで下さる?」
「もういいだろう!? 恥ずかしくて死にそうだ!!」
 その場に塞ぎこむ、長門。
「えと……なんていうか、アタシ=恥ずかしい存在みたいになってるよ?」
「さて『戦艦北上さん』? あなたは、いくつ魚雷発射管をお持ちですの?」
「か、片舷20門……ぜ、全40門の魚雷はっ……」
「戦艦が魚雷なんて撃てませんよ!」
「大井許してくれ! もうこんな格好で、そんなこと言うのは無理だ!」
「アタシは、毎日こんな格好でそんなこと言ってるってば」
「私と北上さんが満足するまで、許しませんわ!」
「アタシがこれ見て何を満足するってのさ」
「もう私と光GE○JIを、北上の呪縛から解き放ってくれ!」
「アタシが光GE○JIに何をしたの?」
「長門さんは許せても、光GE○JIだけは許せませんわ!」
「かりんとう取ってきてる間に、何がどうなったのよ?」
「いざ! 陸奥さんに電話!」
 大井が長門のスマホから陸奥に電話をかけた。それを、大井のスマホで中継する。

 ブブブ、ブブブ

 脱衣所に響く、バイブ音。しっかり者の陸奥さんは、常にマナーモードにしていたようだ。