88 アシュラリスト 旅立ちの時

ポローニアス:

ついでに一つ二つ教訓を言ってきかすからな、よいか

しっかり胸に刻みつけておくのだぞ。まずおのれの心はむやみに口にせぬこと、

かくべつ過激な考えは実行に移さぬが肝要じゃ。

人には親しむがよいが、狎れてはいかん。

一度これと見きわめた友人は、二度と離さぬように鋼の鉤でしっかりおのれの心にひっかけておけ。

ただし、よくも知らぬ伊達者どもを次から次へ迎えいれて、握手で掌の皮ばかり厚くするのは禁物だぞ。よく用心して喧嘩の相手にならぬがよい、しかしいったん始めたら、徹底的にやれ、その後相手がお前を用心するようにな。

誰の言うことにも耳を貸せ、だがこっちの考えはできるだけ言わぬこと。

つまり誰の意見でも聞くが、自分の判断はさし控えておくのじゃな。

服装は財布の許すかぎり立派なのを揃えるがよい、が、奇抜なのはいかんな。要は立派で、しかもけばけばしくないことだ。

衣装というものは往々着る人の人柄を表すものじゃ、それにとりわけフランスという国は身分の高い人々が総じて衣装には費用を惜しまぬふうがある。

それから、金は貸しも借りぬもせぬがいちばんじゃな。

金を貸せば、その金ばかりか友人まで失くしてしまう。

また金を借りると、とかく倹約心がにぶる。

さて、最後に一番大事なことは、おのれに誠実なれ、ということだ。

さすれば必ず、夜が昼につぐごとくにじゃな、他人に対しても誠実ならざるを得ん。

さあ、往け――願わくばこの訓戒がお前の心に刻みつけられますように!


ゼーレの眼目

シェイクスピア『ハムレット』より

ポローニアスの息子レアーチーズがフランスに旅立ち、しばらく国を離れることになった。その旅立ちの時に、家庭かつ宮廷という狭くて住み慣れた暖かい空間から、はじめて社会に出て行く息子に、父親としてこれだけは注意として与えておきたいという台詞である。旅立つ息子に対して、これから生きていく上での教訓を言って聞かせ、それを胸に刻みつけておくんだぞと言っているわけだ。


「からだを殺しても、魂を殺すことのできない者どもを恐れるな。」聖書マタイ伝十章二十八節より


 私の父はすでに他界している。特に言い残した言葉もなければ思い出もあまり思い出せない。断片的であり、モザイクなのだ。しかし、ひもじい思いをすることもなく当たり前の日常を送れたことは、父親のお蔭なのだ。無言のポローニアスのアドバイスを父の後ろ姿にみた。有難きは父の後ろ姿…。

 母親は、温もりと愛で我が子を育て、父親は胆力(生き抜く力)に裏付けられた後ろ姿で我が子を導かねばならない。子育てに関して親たちは「想定外」という言い訳をしてはならない。親子になることの巡りあわせは、誰しも想像と理解し得ぬことだからである。


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テーマにシンクロする曲:音譜

旅立つ日~完全版~(字幕付き)

http://youtu.be/GKeFchIOJGE