告知34 成人T細胞白血病(ATL)
成人T細胞白血病(ATL)はHTLV-1というウイルスの感染が原因で起きる血液のがん。ウイルスは長期間潜伏し、50歳を超えて発症する場合が多く、年間約1100人が死亡している。感染後の生涯発症率は5%。根本的な治療法はなく、骨髄移植などが行われる。
感染経路には
(1)母乳による母子感染
(2)性行為感染
(3)輸血による血液感染
に大別される。このうち、献血者の血液検査が実施されるようになり、輸血感染の恐れは消えたが、予防できるワクチンは現状でなく、当面は健診で感染の有無を把握し、感染者を増やさないことが重要になる。
報道によると、母乳や性交渉で感染する成人T細胞白血病(ATL)などの原因ウイルス「HTLV-1」について、菅直人首相は2010年9月8日、官邸に特命チームを作り、感染拡大防止や治療方法の開発に乗り出す方針を示した。今後、全妊婦が早期発見につながる血液検査を受けられるよう支援体制などを検討する。
現在の感染者は約108万人。感染するとATLや、下半身まひが進行し歩けなくなる「脊髄(せきずい)症(HAM)」を発症する恐れがある。治療法は確立されていないが、日本産科婦人科学会は「妊婦健診で検査を実施すれば、次世代の感染危険性を大幅に減らせる」と指摘。患者団体とともに、政府に全妊婦の健診時検査や公費負担などを要請してきた。
政府は小川勝也首相補佐官をリーダーとする特命チームを設置。公費負担による妊婦健診での検査、診療拠点の整備や相談窓口の設置、治療法の開発につながる研究促進などを協議する。
患者団体と面会した菅首相は「患者を増やし、防ぎ得たかもしれない感染を広げた。政府として反省し、しっかり取り組みたい」と語った。
会見には、3年前にATLを発症した浅野史郎・前宮城県知事も同席。昨年5月に悪化、骨髄移植を受けた。今年2月に退院し、公の場に1年3カ月ぶりに姿を見せた。感染防止でマスクを着用していたが、「病気になったことを恨んだが、こういう形で参加できたのは神様が選んでくれた道なのかもしれない。やるべきことはあるが、今日は大きな一歩だ」と話した。
◎
ゼーレの眼
感染経路のひとつ「母乳感染」がほとんどであり、母乳から人工栄養に切り替えると母子間感染率が20%から3%に低下するため、本疾患の撲滅・次世代感染リスク減少には母乳遮断が有効であると考えられている。
日本では、西日本、特に、九州にHTLV-1感染者が多く、世界的には、カリブ海沿岸諸国、中央アフリカ、南米などで頻度が多い。HTLV-1は母乳により垂直感染を起こすことが知られており、乳幼児の感染者が40-60年の潜伏期を経て成人T細胞白血病を発症する。HTLV-1キャリアは日本全国で100万-200万人いるといわれている。毎年600-700人程度キャリアがATL(病型は問わない)を発症している。キャリアの生涯を通しての発症危険率は2-6%である。
これまでは感染者が九州・沖縄に多く、厚生省研究班(当時)は90年の報告書で「感染率の高い地域以外での対策は不要」と報告。同省は「風土病」とみなし、長年対応を自治体任せにしてきたが、最近は人口移動などで感染者は全国に広がった。現在では半数が九州・沖縄以外で暮らしている。
政府は、今後、全妊婦が早期発見につながる血液検査を受けられるよう支援体制などを検討するとしている。
感染から発症までの期間が非常に長いため、成人で初感染した場合は発症せずに寿命を迎えることがほとんどである。しかし、感染者は約108万人、年間約1100人が死亡という数字はゆゆしき事態であることは動かない事実である。
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