44 アシュラリスト こころ

「はじめまして」この一秒ほどの短い言葉に、一生のときめきを感じることがある。

「ありがとう」この一秒ほどの短い言葉に、人のやさしさを知ることがある。

(漫画家の小泉吉宏さん)

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意に染まない縁談を受け入れようとする姉に、弟が尋ねた。

「ほかに好きな人はいないのか」。

みすゞは「いる」とさびしそうに言い、

「黒い着物を着て、長い鎌(かま)を持った人なの」、そう答えたという。

不幸な結婚生活を経て、26歳でみすゞみずから命を絶つ。

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生きていることの手応えとは何だ。

「生」の実感とはなんだ。

やはり、それは恋であり、愛である。想定も予想もつかないその行動の中にこそ真実があるのだろう。

私が知る最も悲しくそして辛い出来事は、意に染まない人物と結婚することだ。

多くの言い訳を正当化する結婚は、もはや結婚ではなく、「世間病に侵された動物的棲息」に身を埋没させることだ。

どんな親も立派な人と結婚するよりは、幸福な結婚をしてくれることを望むはずだ。不幸な結婚とは文学的表現にすぎない。現実は過酷であり、いばらの道なのだ。だからこそ、幸福な結婚を望む、それはかつて自分が歩いた轍(てつ)を子供に踏ませたくない親ごころだろう。

ゼーレの眼目

上記、漫画家の小泉吉宏さんの詩は25年前、時計会社のCMに採用され、テレビで一度だけ放送されたという。評判が口コミで広がり、詩は、教科書にも載った。

 リメークされたのは、セイコーウオッチの「一秒の言葉」(60)1984年にラジオCMとして制作され、翌85年にテレビCM化、同年暮れの民放「ゆく年くる年」で放送された。校舎を背景に、詩が流れるイメージCMだった。

 放送後、「詩を結婚式のスピーチに使いたい」「教材にしたい」という問い合わせが、毎年のようにセイコー社に。詩はファンによりネットにもアップされ、20084月には、小学5年生用の「道徳」副読本にまで採用された。

「みすゞ」とは金子みすゞのことである(評伝「童謡詩人 金子みすゞの生涯」(JULA出版局)による)。

金子みすゞの詩に「繭(まゆ)と墓」がある。


繭と墓

(かひこ)は繭に

はいります、

きうくつさうな

あの繭に。


けれど蠶は

うれしかろ、

喋々(てふてふ)になつて

飛べるのよ。


人はお墓へ入ります、

暗いさみしい

あの墓へ。


そしていい子は

(はね)が生え、

天使になって

飛べるのよ。


みすゞは何を見てきたのだろう。結婚という夢か、恋という幻か。そして天使になり羽が生えて、やっと自由になれた・・・。

きっと、人は「はじめまして」と「ありがとう」の間のとてつもない距離をカタツムリのようなスピードで悲しみをなめながら歩いていくしかないのだろう。

AEGIS シリーズ全編及び「ゼーレの眼」と画像
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