AEGIS覚醒 SEELEの姿 少年の思い:僕のすべきこと 第4夜
第4夜 異変と過酷な現実
そして、少年は自分自身の異変にも気が付いた。自分の体もその場に倒れ込み、肉体から白い自分が抜け出てきた。
「あれ、体が軽くなってきたよ!?」少年は誰とも話をしてはならい約束を守らなかったので、本当に死んでしまったと悟った。
「これで、もう母ちゃんには会えないんだ…。母ちゃんゴメンね…。」少年は涙が止まらなかった。
肉体から放れた自分の魂は、そのまま別の場所に導かれるように移動した。
しばらくしたら、あの約束をした見知らぬおじさんとまた出会った。おじさんは少年に「今度は本当に死んでしまったようだね」と言った。
そしておじさんの近くにいた女性が少年に笑顔で声をかけた。「しばらくぶりね、としちゃん、あなたがこんなに早くここに来るとは思わなかったわよ」。
少年は「あっー、おばあちゃんだ!」そこにいたのは昨年、病死した少年の優しい祖母だった。そして祖母は静かにそして哀しい声で、「あなたにはつらいことを知らせなければならないの。しっかり聞いてね。あなたが一番会いたかったお母さんはね、自殺したのよ…」。
突然のことで少年は驚いた。
そして「死んだのならまたここで会えるの?」と尋ね、祖母は「確かに死んだけど、お母さんはここにはいないのよ」。
「それじゃどこにいるの?」祖母は「場所はわからないけどお母さんはここには来れないのよ」と言った。
少年はだんだん悲しくなってきた。そして泣きながらこう叫んだ。「あの時、交通事故のことをしゃべらなければ、母ちゃんに会えたのに…。つらいよ!おばあちゃん!!」少年は自分の行動にいささかの後悔を感じた。
人はつらい目に合うと皆後悔するがそれはどうにもならないことだ。それより今、自分が何をすべきか考えることだ。この世では善悪の力に加えて運命の力が働く。しかし、少年の情けが大勢の人の運命を変えるかもしれない。
そして祖母は「でもあなたのしたことは偉いことなのよ、誰にでもできるということじゃないのよ…」。
つい孫の涙にもらい泣きしてしまった祖母は、続けて「あなたが交通事故で死んだ後、お母さんは絶望し、あなたを追うようにして自ら命を絶ったの、不況のなか家族を支え、働きずめのお父さんが過労で倒れて死んでからというもの、女手一人であなたをどれだけ大切に育て、愛情を注ぎ込み、さらに生きがいにして今日まで生きてきたことか。お母さんは本当にひとりぼっちになってしまって、淋しくて悲しくてあなたのことがいとおしくて自殺してしまったの。誰も責めることはできないことだけど、たとえどんな理由があったとしても、この世界ではそれは許されないの。
闇の中に落ちてしまった母の心を救うものはなかったか?「人の親には、病となるも子の心、薬となるも子の心」(近松門左衛門の浄瑠璃「生玉心中(いくだましんじゅう)」の一節)とある。少年は一度は死んだが、また黄泉帰り、母に会いに来たが、それは叶わなかった。親とすればわが子を迎えて、晴ればれと穏やかな時間を過ごしたかっただろう。母は子の心の闇を思っては患いの種とし、光が差すのを見ては良薬にする。悲しいことに少年の心に光が差し始めた姿を見ないまま、母の心は自ら闇に囲まれた。せめて老母を救った少年の心の光を見れば母の心の薬になったはずだった…。母は立ち直るためのたった一つの心の良薬に巡り会えなかったのだ。
第4夜おわり
AEGIS シリーズ
転載、コピー等はご遠慮ください。
Copyright(c)2007-2008