AEGIS覚醒 SEELの姿 少年の思い:僕のすべきこと 第2夜


2夜 唯一の目撃者

その時だった。

目の前に大きなトラックが猛スピードで走ってくる。

信号機が赤色になった。

トラックは急ブレーキをかけた。

「キキーッ!!」そしてその後、鈍い音で「ドン!」という音が聞こえた。

少年は「あぁ!おばあさんがトラックに引かれちゃったよ!」と口を押さえて、心の中で叫んだ。「大変だよ!交通事故だよ!!」少年はあわてうろたえ、その一部始終を電車のトンネルの陰から見ていたのだった。

トラックから慌てて降りてきた運転手はその場に立ちすくみ、交差点に踞っている老婆を見た住民の通報ですぐに警察官が到着した。

騒ぎに気付き、近くに住んでいたその娘も血相を変えて飛んできた。警察官は、倒れた老婆を指さし「あなたは身内の方ですか?」とその女性に聞いた。

女性は、震える声で「はい、私の母です…。」そして、娘は「母は眼病を患っていまして、先週手術をしたばかりなのです。いつも注意して見ていたのですがちょっとした隙に出掛けてしまったのです、すいません。」と謝り出した。

警察官は「いや、あなたが謝ることはないんですよ」。

その警察官と娘の話をそばで聞いていたトラックの運転手は、心の中で「しめた、このババァ、目がよく見えなかったのか」、そうであればトラックの運転手は「本当は昨日夜遅くまで飲んで遊びすぎた俺の居眠り運転で起きた事故だったが、ババァが信号を無視して飛び込んできたことにしてやろう」という邪な考えを思いついた。ほどなく運転手はなんの躊躇もなく本当にその嘘を口から出してしまった。「事故に遭われたその娘さんのお母さんには悪いと思っていますが、なにせ信号を無視して、急に飛び出してきたので避けようがなかったんですよ」事故調査の警察官とその娘に嘘の理由を話し、運転手はすまなそうな顔を作って言った。

娘は事故について眼の悪い自分の母の責任だと思ってしまった。

母は「今日は少し気分がいいから、お散歩にいこうかしら」と言い、外出したのです。

「お母さん、ちょっと待って!目の手術をしたばっかりだし、外出は危ないから私も一緒に行くからと言った矢先だったのに、私の気配りが足りなかったのです…。悪いのは私なんです」娘の母親は年とともに持病の糖尿病が悪化し、それが原因で白内障になり目が見えにくくなっていたのだったが、手術を受けたため視力と視界はいくぶん回復していた。

少年は、マンホールの中から泣いている老婆の娘を見ながら、「おねえちゃんが悪いんじゃないよ!その運転手は悪い人だよ、本当のことを言わないんだもの。おばあちゃんはちゃんと信号を守っていたんだよ。」と心の中で叫んでいた。

「だけど、このまま心の中で言っているだけじゃ、お巡りさんには聞こえないよ。どうしよう…。」

少年は「もし、一言でもしゃべったら本当に死んじゃって、母ちゃんには会えないし、しゃべらなければ、車にぶつかったおばちゃんとお姉ちゃんがかわいそうだし、一体、どうすればいいんだろう…、ねぇ!母ちゃん!」と母親を思い出していた…。
第2夜終わり


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