母ライオンの悲しい決断(フレーメン) By AEGIS
母ライオンは乳首が4つしかなく、子が5頭以上生まれとその奪いあいとなる。ライオンが天敵であるバッファローはライオンを子供のうちに踏み殺そうとするのだ(大きくなったらいつか自分が食い殺されることを知っているからだ)。母ライオンは子育てのため、いったん群れから離れる、ライオン母子にとってはこの時期はきわめて危険な状況だ。そのため子ライオンはバッファローに蹴られて致命傷を受ける場合がある。5頭のうち2頭は頭部と顔面を負傷し毛がはげ、地肌が見え、血がにじんでいた。
バッファローの次は雄ゾウである。アカシア(acacia)の木の下に母ライオンが巣を構える。アカシアを好物とするゾウが集まって来る。ただ食事に来るだけならいいのだが、特に若い雄ゾウは自分の力を誇示するため、近辺で暴れ回る。その際、ゾウに子ライオンが踏み付けられる危険性がある。
若い雄ゾウに踏まれ、瀕死の重傷を負った子ライオンに母ライオンがもの静かに近づく。そして、母は子の負傷した部分を丁寧に舐めて看護するが、正確には、臭いを嗅ぎ分け子の生死を判断していたのだ(これをフレーメンという)。
その後、母は子が助からないと判断した(現地ガイドによると子の背骨は曲がっていて、内臓も破裂しているだろうということ)。子は母に助けを求め、悲しい声を出す。しかし、母は恐るべき行動をとった。母ライオンは子の頭をすっぽりと口でふさぎ、約20分かけて窒息死させたのだ。その後、死んだ我が子を喰らった。(現地ガイドによると)これには2つの意味があるという、1つはこれ以上我が子を苦しませないこと、2つは血の臭いを嗅ぎつけ、他の肉食獣(ジャッカル・ハイエナ等)に生き残った子が襲われるのを防ぐためである。
5頭いた子の1頭はこのように死んだ。3頭は助けたが1頭が見当たらない、翌日、母ライオンは子の泣き声を聞き取り、生き残った1頭を探し出した。母は子に心置きなく乳を与えた。
しかし、母ライオンの顔はうつろだった。その子にゾウの臭いが染み着いてしまっていたのだ。先ほどのゾウが暴れ回っている際に鼻から大量の分泌物を吹き出し、それを浴びてしまったのだ。体は無事なものの、そのゾウの臭いがついた子ライオンは成長し群れに入ると今度は仲間から襲われることになる。母ライオンはその事を知っていてゾウの臭いが他の3頭の子に移らないように、子の将来を案じ、3頭の子ライオンとゾウの分泌物を浴びてしまった1頭の子ライオンを別々に隔離して育て始めた。
試練の子育て
母ライオンの2ヶ所往復の子育て、子が1ヶ月にならないと群れには戻れない。子育ての場所は50頭の象の大群の移動する中にあった。そのため母ライオンは、あらかじめ巣を移動させた。象の烙印が押された子の育児放棄なのか、置き去りにされた赤ちゃんライオン。お腹がすき、体力低下。周りには他の肉食獣が徘徊している。母ライオンは他の3頭と一緒に子育てを再開。置き去りにはしなった母ライオン。2か所の巣をかけ持ち、母ライオンは子育てにいそしんだ。
2005年特番聞き取り筆記
ゼーレの眼
人間も動物のうち。人間が作り上げたルールではない、自然界の別の生殺与奪のルール。母は命を生むものであり、また殺すものでもある。しかし、殺すには理由がある、必ず。愛を持って葬る慈悲にも思える。
人間の母親の「おっぱい」は「おなかいっぱい」の省略語。
「万物の霊長よ、驕ることなかれ」
編集・文 栗城利光(SWAN)