特別寄稿 七夕Sanctuary
心の短冊に書く、みんなの願い事はなんだろう。
しかし、いつまでも熱く生きたいよ。
あなたは、どうかな?
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七夕Sanctuary
青年の恋人エウリディケがたわむれに摘んではならぬ草の実を摘んだため地獄の王プルートゥの逆鱗に触れ、生きながらに地獄に連れて行かれる。青年は苦悩のどん底に落ちるがパンテオンに居る神々に助けを求めた、が聞き入れる神は一人もいなかった。
そして青年は恋人の好きだった曲を自分の得意な琴で毎晩弾き続けた。その優しくも悲しい音色に愛の女神ビーナスの心が動かされた。「私は愛の女神ですから貴方に武器を与えることはできません。ここになんでも眠らせてしまう粉の入った袋を差し上げます。後は妖精が貴方を地獄の門に案内します。しかし、地獄の門に入ったからといって、必ずしも彼女に会えるとは限りませんよ、貴方も生きて帰れるかわかりません!それでもいいのですか?」
青年は生きてもう一度彼女に会えれば、もう欲しいものはなにもないとビーナスに答えた。青年は妖精に導かれ、地獄の門に着いた。3つの首を持つ狂暴で巨大な狼ケンタウロスが門番をしていた。それをビーナスからもらった眠り薬をかけて、眠らせ、地獄の門をくぐった。長い階段を降りる途中様々な怪物に出会うが、彼の奏でる琴によって借りてきた猫の子のように静かになってしまった。ほどなく青年はエウリディケの名を呼び続け、彼女の好きだった曲を弾き続けた。その曲を聞いた地獄の王プルートゥもうっとりして眠ってしまった。プルートゥはその青年が地上から地獄に来たことの勇気を讃え条件付でエウリディケを青年に返すと言った。
その条件とは地上に出るまで彼女の顔を見てはならないこと、決して後を振り返ってはならないことだった。
青年はエウリディケの手をしっかり握り地上への出口へと急いだ。先程来た道を戻ってゆき、長い階段をゆっくりと手をつなぎながら、上っていった。
「後もう少しだよ!エウリディケ、地上に出たら結婚しよう!」
彼の足が地上に出た途端、彼は嬉しさの余り後を振り返り、彼女の顔を見てしまった、彼女の足は地上には出ていなかった。
彼女の喜びに満ちた顔が苦悩に満ちた顔に変わり、地獄の階段が下から崩れ始め、彼女は「命がけで私を迎えに来てくれてありがとう、貴方の愛情は生涯忘れません!今まで優しくしてくれて本当にありがとう、もうこれで本当に逢えないのですね・・・、
「あぁ!なんということをしてしまったんだ!
後にも先にも恋人の綺麗な顔を見るのが最後になってしまった。しかし彼女に一目でも会えたのだからそれでよしとするのも切なかった。
自分の力の無さを悔やみ、せめて自分にできることはないかと思い、地上に一人きりで戻ってきた青年は本当に死んでしまった恋人のために琴で死を悼む曲を弾き続け、そのまま絶命してしまった。
その優しくも淋しく切なく奏でる琴の音は天空でその一部始終を見守っていたビーナスを始め、多くの女神の涙を誘った。
恋人のために曲を弾きながら息絶えた青年の一途な愛と勇気を讃え、それを後世に伝えるためにビーナスはゼウスに頼み、ゼウスはその願いを受け入れ、青年は琴座に変身し天に召された。
その後、愛の守護星として語り継がれるギリシャ神話悲劇の1話である。琴座(LYRA:リラ)は北天の星座の一つ。リラとはギリシャ語で小堅琴の意味。首星はベガ(漢名:織女星しょくじょせい)それは7月7日の夕方、天の川の対岸にある鷲座の首星アルタイル(漢名:牽牛星けんぎゅうせい)と逢うという七夕伝説がある。
後世の人々が離れ離れになった星の恋人たちを不憫に想い、せめて年に一度逢わせてあげたいと神々に頼んだかは定かではない、がそう思いたい・・・。
天空の星座を見上げれば涙はこぼれない。
一部脚色・編集:栗城利光(SWAN)
ゼーレの目
「月をこそながめ馴れしか星の夜の深き哀れを今宵知りぬる」
「彦星の行き合ひの空をながめても 待つこともなき我ぞ悲しき」2首とも(建礼門院右京大夫)
後者は、恋人であった平家の公達、平資盛(すけもり)が壇ノ浦で死亡し、年に一度の逢瀬さえもかなわぬ身を嘆いた一首といわれる。
関連:
壇ノ浦は源平合戦最後の戦場(1185年3月24日)。平氏は宗盛が安徳天皇および神器を奉じ、源氏は義経を総大将とし、激戦の後に平氏は全滅し、平清盛の妻、二位尼(にいのあま)は安徳天皇を抱きながら海に身を投じた、とされる。