14 トランジットタイム砂時計

恋をしたい男、愛を探している女。

そんな男女がめぐり合う機会を作ってくれる人がいれば、

あんなにも切なくなる必要もなかったのに…。

「僕と付き合って…、今度の土曜日に映画でも見に行かない?」

「えっ!私と?」

「そうだよ。あいているなら、あしたの土曜…。」

「ええ、いいですよ」

「ようし、決まった。駅ビルのペコちゃんの前で午後2時だぜ、2時!」

「はい…。」

「それじゃ、あしたな!」

さよなら…」ガッチャン、ツー、ツー、ツー。ガッチャン。

メールはすり抜け、電話は演技か、誰にも予想はできない。それでも、恋自体は始まる。予感と余韻は冷静な判断をデフォルメしながら、期待だけが体から遊離する。

また、恋のトランパー(不定期船)に乗り遅れたの、か。船


ゼーレの眼目

 トランジットタイム(transit time)、飛行機などの乗り継ぎの間の時間。特に外国の場合、やることがなく時間をもてあそぶ。時には飛行機の中で待たされることもある。

恋は乗り継ぎされるのも、乗り継ぎするのも快くない。原因があれば別だが。

最近は「アリバイCD」などが出回り、空港にいないのにあたかも空港にいるような雰囲気を醸し出す。

しかし、GPS(全地球航空測位システム)で自分の居場所はすでに知られているかも。デジタルに頼らない、アナログが懐かしい。例えば、彼女が出るか親が出るかドキドキしてかけた、公衆電話。先客がいると余計にドキドキが倍増する…。確実につながる携帯電話にはない不確実が、想いも熱くさせる。便利になると何かがすり抜けていく。

見つけることも乗ることも困難な恋のトランパー(tramper)、やっと見つけたと思ったら、出港か。せめて、恋に嘘はつくな。笑顔で見送ることにしよう。

かくてこの恋は過ぎゆく。

※「sic transit gloria mundi」(ラテン語:かくてこの世の栄誉は過ぎゆく。)