よくエーゲ海を旅するならいつがいいか?という質問を受けます。
そのような場合、私は迷わず晩春から初夏と答えます。
長いこと初秋に旅を続けてきた私にとって、春の旅は衝撃でした。
どの島に降りても、野の花の匂いが漂い、時にはむせかえるほどの薔薇の匂いに迎えられることも。
例えばミコノスから日帰りで行けるアポロンとアルテミスが生まれた聖なる島、ディロスの遺跡群も、その足元で白や黄色や紫のかわいい花が一面に咲き誇り、風に揺れながら、そこにいる人をたちまち神話の世界に誘い込みます。
花の魔力というのは本当にすごいですね。
人も町も、海も丘も、すべてのものが甘い空気に包まれてソワソワウキウキしているのを感じます。
旅する私もウキウキします。
一般にエーゲ海の島々は6、7、8月がハイシーズンで、欧米から大勢の人々がバカンスに訪れます。
この時期、港沿いのタベルナやカフェの椅子には短パンにタンクトップ姿の観光客が隙間なく座り、ビール片手に何をするでもなく、道行く人々をながめています。
ちょっとした観光地へ向かうバスは、東京の通勤ラッシュかと思うくらいの寿司詰め状態で、夜は明け方まで道に人が溢れ、賑わっています。
のどかな田舎の雰囲気など皆無。まるで六本木のようであり、ディズニーランドのようなのです。
もちろんエーゲ海が一番活気に満ちている時期ですし、島々を結ぶ船便も増え、ホテル代も跳ね上がるこの時期に行けることは、ある意味贅沢で、羨ましい部分もあります。
しかし私が考えるエーゲ海の島ならではの魅力は、美しい海や景色のすぐそばに、長い歴史と文化に彩られた人々の生活があることです。
ところがおもちゃのようにかわいらしいエーゲ海の島も、降り注ぐ太陽だけが目的の観光客に占領されてしまうと、普段の生活は影を潜め、せっかくの景色もアミューズメントパークのような作り物の世界に見えてしまうのです。
タイミングによっては、あまり雰囲気が良いとは言えない島もあるかもしれません。
そこでおすすめするのはその前後のミドルシーズン、4月下旬から5月か、9月から10月上旬までとなるわけです。(°∀°)b
実際4月下旬だと、宿も店もまだ閉まっているところが多く、10月になれば船の便もぐっと減るので、小さな島では不便を感じることがあるかもしれませんが、だからといって泊まるところがないとか、食事に困るというような心配はないでしょう。
もちろんこの時期、海で泳ぐことも可能です。o(^▽^)o
ところが日本人は冬にギリシャを訪れる人が多いのです。
かくいう私も初めてのギリシャは2月。大学の卒業旅行でした。
そこでよく「冬のエーゲ海はどうでしょうか?」という質問を受けます。
いくらエーゲ海といえども、冬に泳ぐことはできません(ギリシャは常夏ではありません)し、エーゲ海の海の碧さも、太陽の輝きがあってこそ。
もし旅の目的が「写真やCMで見たようなエーゲ海の景色を楽しみたい」というものであれば、その目的は達成できないかもしれません。
しかし旅とは単に景色を楽しむだけのものではないはず。
その時、その場所に立った、その人だけ、が経験できる何か、が必ず待っているはずです。
もしあなたがエーゲ海に行きたくて、でもどうしても冬しか時間が取れないというのなら、どうぞ出かけてみて下さい。
あなたにしかできない経験が何なのか確かめに行く価値は十分あります。
そしてそれはきっと、忘れられない思い出になるでしょう。