「本当ですか?なんで僕が心配していないといけないのですか?」
「自分で考えてごらん。それとも、なぞなぞをして遊ぶとするかね。そうしても、私が勝つことは確かだよ。なにしろ私は思考を読めるからね。でも有利な条件を貰うのは好きではないので、また別の機会にしたいね」
「ええと、幾つか思い悩むことがあるんです。一つには、人びとが苦しんでいるのを見ると、それが気掛かりです」
「人の苦しみは今に始まったことではないが、以前はそれほど気に留めていなかったね」
「以前は気づかなかったのです。正確には、今ほど意識することがなかったのです」
「もちろんだとも。なぜなら、今は君の感受性が目覚めているので、目にしなくても、感じ取って自分のことのように思うのだ。人びとは前から苦しんでいたのだが、君はそれに気づけないでいたので、影響されなかったのだ。でも今は意識しているので、動揺している。それがふつうだ。しかし、君が悩んだところで、人びとの苦しみがなくなるわけではない」
「それはそうなのですが、何か役立つことをしたいのです。でも、無力に感じるのです。ベスタとジュノーと一緒にいた時にこの話が出たことは覚えているのですが。つまり、この世の中が実際にどのように機能しているのか――霊性についてとか、人が進化して幸せになるためには愛する能力を高めなければいけないことなど――を皆に伝えることを言っているのですが、どこから手をつけたらいいのか見当がつかないのです」
「それなら、初めから始めることだよ、はっはっは」
笑われると、僕が大真面目に話していることをイザヤにからかわれた気がして少しムッとしたけれど、イザヤはすぐにそれに気づいて、
「そうムキにならないことだ。私にとって大事でない、などと思わないでほしい。大事だから、今ここに来ているのだ。君の緊張がほぐれる 9ように、少し笑わせてみたかっただけだ。ユーモアと愛との結びつきを知らないのかね?笑いというものは、愛と同じく、内面の至福と悦びが顕れ出たものだ」
「すみません、少し過敏になっているので」
「構わんよ。君の力になるためにここに来ていると言っただろう」
「馬鹿げたことに思われるかもしれませんが、このメッセージをどのように伝えたらいいのかわからないのです。それに、体験したことを思い出せなくなることも心配なのです。しかも、人が必要としていることを全部教えてあげられるほど自分が充分に理解していないとも感じています。僕にはまだ準備ができていません。僕自身、疑問だらけなんです。自分がはっきりわかっていないのに、どうやって他の人たちに説明してあげることができると言うのでしょうか?」
「私が手伝うのだから、できる筈だよ」
「僕が言いたいことがわかってもらえないのだと思います。助けていただいたとしても、その後で僕が身体に戻ってきた時に、教えたもらったことを覚えていられるかどうかが心配なのです」
「言いたいことはわかるよ。でも、圧倒されているのをみると、君が私をわかっていないようだ。前にも言った通り、そのことは心配しなくてもいい。どんな問題にも解決策はあるし、この時代であればなおさらだ。ところで、話はできるかね?」
「何ですって?意味がわかりません。なんで、今僕が話せるかどうかなんて訊くのですか?一緒に話しているではないですか」
「わからないかね。メンタルな会話のことを指しているのではない。今、私たちはテレパシーで交信しているのだよ。私が言いたいのは、君が自分の声を使って話ができるか、音声を出せるかどうかだ。今は君が身体に繫がったままでいることを忘れないでほしい」
「わかりません。試してみませんでした」
「では、やってごらん。でも、気を逸らさないように」
そこで、イザヤに言われた通りにしようとしたけれど、その時になって初めて、イザヤに指摘されたことに気づいた。意識していなかったので忘れていたが、まだ身体の中にいたのだった。イザヤが僕に声を出すように言った時になって初めて身体を感じたが、ほとんど感覚がなく、僕の言うことなど聞き入れそうになかった。全身が麻痺し、しびれているようだった。しゃべろうと口を開けたが、声が出なかった。自分の身体の中にいたのに、動かすことができなかったのだ。
「だめです」と、頭の中で伝えた。