山口子どもの文化研究会の最後は岡本修二さんの紙芝居で、「忘れられないおくりもの」です。とても感動した物語なので全文紹介します。
忘れられない贈り物。byスーザンバーレイ
アナグマは、賢くて、いつも皆に頼りにされています。困っている友達は、誰でもきっと助けてあげるのです。
それに、大変年をとっていて、知らない事は無いというぐらい、物知りでした。アナグマは、自分の年だと、死ぬのが、そう遠くはないことも、知っていました。
アナグマは、死ぬことを恐れてはいません。死んで体が無くなっても、心は残ることを、知っていたからです。だから前のように、体がいうことをきかなくなっても、くよくよしたりしませんでした。ただ後に残していく友達のことが、余り悲しまないようにと、言っていました。
ある日のこと、アナグマは、モグラとカエルのかけっこを見に、丘に登りました。その日は、特に年をとったように思いました。あと一度だけでも、皆と一緒に走れたらと思いましたが、アナグマの足では、もう無理なことです。それでも友達の楽しそうな様子を、眺めているうちに、幸せな気持ちになりました。
夜になって、アナグマは、家に帰ってきました。月におやすみを言って、カーテンを閉めました。それから、地下の部屋に、ゆっくり降りていきました。そこでは、暖炉が
燃えています。夕ご飯を終えて、机に向かい、手紙を書きました。揺り椅子を暖炉のそばに引き寄せて、静かに揺らしているうちに、アナグマは、ぐっすり寝入ってしまいま
した。そして、不思議な、でも、すばらしい夢を見たのです。
驚いたことに、アナグマは、走っているのです。目の前には、どこまでも続く長いトンネル。足はしっかりとして力強く、もう、杖もいりません。体はすばやく動くし、ト
ンネルを行けば行くほど、どんどん早く走れます。とうとう地面から浮きあがったような気がしました。まるで、体が無くなってしまったようなのです。アナグマは、すっか
り自由になったと感じました。
次の日の朝、アナグマの友達は、皆心配して集まりました。アナグマが、いつものように、おはようを言いに来てくれなかったからです。キツネが、悲しい知らせを伝えま
した。アナグマが死んでしまったのです。そして、アナグマの手紙を、皆に読んでくれました。
「長いトンネルの向こうに行くよ。さようなら。アナグマより。」
森の皆は、アナグマを愛していましたから、悲しまない者は、いませんでした。中でも、モグラは、やりきれないほど、悲しくなりました。
ベッドの中で、モグラは、アナグマのことばかり、考えていました。涙はあとからあとから頬を伝い、毛布をぐっしょり、濡らします。その夜、雪が降りました。冬が始ま
ったのです。これからの寒い季節、皆を暖かく、守ってくれる家の上にも、雪が降り積もりました。
雪は、地上をすっかり覆いました。けれども、心の中の悲しみを、覆い隠してはくれません。アナグマは、いつでも、そばにいてくれたのに。皆は、今どうしていいか、途方に暮れていたのです。アナグマは、悲しまないようにといっていましたが、それは、とてもむずかしいことでした。
春が来て、外に出られるようになると、皆互いに行き来しては、アナグマの想い出を語り合いました。
モグラは、ハサミを使うのが上手です。一枚の紙から、手をつないだモグラが、切り抜けます。切り抜き方は、アナグマが、教えてくれたものでした。初めのうち、なかなか紙のモグラは、つながらず、ばらばらになってしまいました。でも、しまいに、しっかりと手をつないだモグラの鎖が、切り抜けたのです。その時のうれしさは、今でも、忘れられない想い出です。
カエルは、スケートが得意です。スケートをはじめてアナグマに習った時のことを話しました。アナグマは、カエルが一人で立派に滑れるようになるまで、ずっとやさしく、
そばについてくれたのです。
キツネは、子供の頃、アナグマに教えてもらうまで、ネクタイが結べなかったことを、思い出しました。「幅の広い方を左に、狭い方を右にして首にかけてごらん。それから、広い方を右手でつかんで、狭い方のまわりにぐるりと、輪を作る。輪の後ろから前に、広い方を通して、結び目を、きゅっとしめるんだ。」キツネは今、どんな結び方だってできますし、自分で考え出した結び方もあるんです。そしていつも、とても素敵に、ネクタイを結んでいます。
ウサギの奥さんの料理上手は、村中に知れ渡っていました。でも、最初に料理を教えてくれたのは、アナグマでした。ずっと前、アナグマは、ウサギにしょうがパンの焼き
方教えてくれたのです。ウサギの奥さんは、初めて料理を教えてもらった時のことを思い出すと、今でも、焼きたてのしょうがパンの香りが、漂ってくるようだと言いました。
皆誰にも、何かしら、アナグマの想い出がありました。アナグマは、一人一人に、別れた後でも、宝物となるような、知恵や工夫を残してくれたのです。皆はそれで、互い
に助け合うこともできました。
最後の雪が消えた頃、アナグマが残してくれたものの豊かさで、皆の悲しみも、消えていました。アナグマの話が出るたびに、誰かがいつも、楽しい想い出を、話すことができるように、なったのです。ある暖かい春の日に、モグラは、いつかカエルとかけっこをした丘に登りました。モグラは、アナグマが残してくれた、贈り物のお礼が言いたくなりました。 「ありがとう、アナグマさん。」モグラは、なんだか、そばでアナグマが、聞いていてくれるような気がしました。そうですね。きっとアナグマに、聞こえたに違いありませんよね。
「命の大切さ」は語りつがなければならない。この話は動物にたとえてありますが、こころうつものがありました。
全部ブログで紹介したいところですが、今はスピードの時代なのでこれで終わります。
全部見たい人は周南郷土文化科学館へお問い合わせください。
電話0834-34-9938