きのうの神さま ポプラ社() | |
涙が出ました(2009-07-19) 地方の医療現場をとても丹念に取材されたのでしょう.取り上げられている情景,心情,特別なものではないのですが,とても心が打たれます.少なくとも私が感じたことがある,何とも言葉にできない”におい”,”きゅんとなる気持ち”,自分でも感じるいやなところが,嫌みなく,ユーモアーを交え,悲観的でもなくつづられています.その中で平凡な日常を過ごしていく一人一人が大切に扱われていく目を感じます.ディア・ドクターが最も心打たれた作品でした.この数年の読んだ中では最もすごさを感じます.これだけのものを作るのは大変だと思いますが,次回作にも期待したい作家です. | |
西川監督の言葉(2009-07-18) 映画「ディアドクター」を観てから購入しました。 幸運にも西川美和さんの本書に関するお話を映画館でお聞きしたので、それについて記させて頂きます。(内容はテープの起こしでは無い為中略及び語異はご容赦願います) 「本書は映画を制作するにあたって何人かの僻地医療に携わる医師の方を取材させていただきました。そこで映画に入れられなかったこぼれ話を形に残そうとしたものが『きのうの神さま』です。ですので映画本編の内容には全くかすらない別の話なのですが、良かったら読んで頂ければと思います。」 直木賞には惜しくも落選してしまいましたが、この夏のオススメな1冊&映画です。 | |
映画監督の目(2009-07-15) この短編集が書き下ろしであることにまずは驚きを持って読んだ。よく似たトーンの作品をこうもうまくオムニバスにしたものだと思った。 正直なところ西川美和という映画監督も小説家も僕は知らなかった。 しかしながら、小説に出てくる人物の切り取り方はいかにも映画監督がカメラの向こう側から見た姿に相違なかった。この抒情詩のような小説をどう映像に変換するのかに興味をもった。 さて、今晩第141回の直木賞が発表されるが彼女の受賞はあるのだろうか。興味は尽きない。 | |
作家としても才気溢れる西川美和のもうひとつの「ディア・ドクター」(2009-07-05) 映画監督西川美和の新作「ディア・ドクター」は、心優しさとさほんわかとしたユーモアにくるまれながらも実に奥が深い、色々と考えさせられる映画だった。 文句なく今年のベスト1を狙える傑作だが、まずは映画を観てから、と封印していた直木賞候補の原作も早速購入。でも、これが短編集なんですね。いささか拍子抜けしたものの、作家としても大変な才気を感じさせる彼女の待望の新刊である。映画の余韻も冷めやらぬ中読み切った。 少女期における微熱的な心の揺らめきと得体の知れない嫌悪感、無医村での代診医が遭遇する老人の町の孤独、思慕する偉大な父親への深い愛情に囚われもがく男。 ちょっとした行間から醸し出される感情の綾。 何気ない日常の隙間から漏れ出してくる深層心理。 彼女らしい人間凝視と洞察力の見事さは相変わらずだ。 彼女自身があとがきで触れているように、本書は飽くまでも、本編の脚本、プロット構築のプロセスから企画、生まれた映画の内容とは別の創作。ただ、伊能治、大竹朱美、鳥飼りつ子と言った映画でのキャラクターは登場し、彼らの後日談ならぬ過去が語られる。 そして、映画では殆ど触れられる事がなかった伊能と年老いた父との関係、彼が肌身離さなかった父のネーム付ペンライトへの想いに、新たな切なさがこみあげてくる。 映画を観て感動した方は押さえておいていい作品だし、本書をまず読んだ方は、是非映画本編をご覧になる事をお薦めしたい。 | |
それぞれの『普通』を見定める珠玉の短編集(2009-07-02) 本書は、映画監督であり また自身が脚本を手がけた『ゆれる』を小説化するなど 小説家としても活動する著者による短編集。 本作に収録されるのは 一人しかいない医師の代わりに さびれた漁村にやってきた代理医を主人公にした『ありの行列』 長年、研究室に勤めてきた医師が 定年後、田舎の診療所に赴任することになる『満月の代弁者』 ―など、地方の医療にかかわる人々の姿を 鋭くい観察眼と、温かい筆致描いた5編。 著者が映画監督ということもあってか、文章がとても視覚的で、 人物や情景が、目の前に生き生きと浮かびあがるように感じました。 個人的に印象深かったのは『ディア・ドクター』 医師になる夢を断念し、東京の医療メーカーに勤める兄と 地元に残り、両親のそばで暮らす弟。 父の入院をきっかけに家族の過去が回想されます。 家族ならではの反目と和解、 身近な人の老いや死に向き合うの重みが ズッシリと伝わりますが、 ほどよいユーモアがそれを和らげ、清清しい読後感が残ります。 多くの人々の『普通』を見定め、 そのかけがえのなさを伝える本書。 著者の作品が好きな方に限らず 一人でも多くの方に読んでいただきたい著作です。 |
- 名作はいつもアイマイ
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