2010 欧州経営大学院留学 (ヨーロッパMBA)

"Toshiba, Nintendo, and Toyota"


以前も書きましたが、英国や米国のメディアは、規模、成長性でアジアの中心という地位を中国に明け渡そうとしている日本経済に対し失望感で溢れています。トヨタのリコールなど"そら見たことか"と見開き2面に大きな工場の写真入りで論じています。ところが、ビジネス・スクールにいると少し違う雰囲気を感じるのです。この1ヶ月で学んだビジネス・ケースには、東芝、任天堂、セガ、トヨタ、SK-II(P&Gジャパン)など日本企業の例が圧倒的です。TescoのCEOであるLeahy氏も、トヨタの工場から多くを学んだのだそうです。「1990年代、トヨタの生産性は世界を席巻していた。従業員が自ら学び、生産をカイゼンしていく姿は、我々に多くを教えてくれた」TESCOがコーポレート・ビジョンを"Every little helps."(小さなことがより良くする)とする所以です。



東芝の青梅工場について、米国の板金製造会社と対比して学びました。ある金型に合わせるためベルトコンベイヤーの機械をセットアップに数分がかかり、ボトルネックとなる工程が問題になり、生産量をベースにボーナスを支払うインセンティブ制度は品質をおろそかにし、最終的に多大なリコール費用を支払うことになる米社。一方、東芝の青梅工場では複数のラインで複数モデルのノートPC生産が走り、作業者の前のモニターには現在流れるモデルの工程が自動的に図示され、社員はベルトコンベイヤーの下にノートとペンを置いていて改善が可能な工程を見つけたら発表し、採用されることで僅かの報酬を受け取ります。オペレーション・マネジメントの教授はこう語りました。「1990年代初め、ある投資銀行の部隊が日本の工場を研究した成果を我々に説明した。彼らの生産は何もかもが違う、ってね。それも文化の違いだから真似できない、って。トヨタの米工場は日本のそれと変わらぬ生産性を叩き出していたわけだけどね」



「スーパーマリオを知っている人は?」ストラテジーの教授はこう聞きました。驚くことに、ほぼ全員のクラスメイトが手を挙げます。「ファミコンが無かったら、本当につまらない子供時代だった」「スーパーマリオって、キャラクター設定が秀逸。イタリア人の配管工が迷宮に閉じ込められたプリンセスを救いに行く、なんて一体誰が考え付いたんだ笑」Atari社が1980年代前半に大失敗した米国ビデオゲーム市場に、任天堂はファミコンを1986年に投入し、1990年までに3千万台、3世帯に1台という驚異的なシェアを獲得しました。ファミコンの成功は、ソフトのクオリティを担保したライセンス制度が大きな要因と考えられますが、米国でゲームソフトを製作していたのはコナミ、ナムコなど日本企業の子会社でした。日本企業はクリエイティブでイノベーティブであるというイメージは、我々が想像するよりも浸透しているようです。現在でもNintendo、Toyota、Sony、Hondaなどといったグローバル企業は世界で最も革新的な企業としてBusiness Weekなどで上位にランクインしています。



高いオペレーション技術とイノベーション力。それがグローバルで活躍する日本企業のブランド・イメージだとすれば、我が国IT企業が海外でビジネスをするために何をすべきか、自ずと見えてくる気がします。ソフトウェアの品質、プロジェクトマネジメント技術に大きな資源を投資している一方で、我々は十分にイノベーティブな商品を生み出しているでしょうか。ひょっとしたら、自らの持つイノベーション力を認識していないか、作りだしたソフトウェアが海外のマーケットではイノベーティブであるということに気付いていないだけかもしれません。


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