【法廷から】性同一性障害の被告、働き口も見つからず…

2008.2.21 11:25 産経


他人名義の保険証を使って携帯電話を入手しようとしたとして、詐欺未遂罪などに問われた女性被告(34)の初公判を19日、東京地裁で傍聴した。感じたのは、性的マイノリティーが生きていくことの困難さだ。

丸刈りの被告は、車イスに乗って入廷した。


起訴状によると、被告は平成19年12月15日、東京都文京区の携帯電話販売店で、他人名義の保険証を使って携帯電話をだまし取ろうとした。


罪状認否で被告は「後で住所変更して支払うつもりだった」と述べたが、起訴事実を認めた。


検察側の冒頭陳述によると、被告は闇の仕事サイトで知り合った中国人から、他人名義の保険証とガス料金の領収書を入手していた。



弁護人「小さいころから活発で明るくて(サッカーの)実業団に入るほどの実力があり、オリンピックも狙えた。そんな被告がなぜ事件を起こしたと思いますか?」



情状証人として証言台に立った被告のいとこの男性は、意外なことを口にした。  



証人「性同一性障害が重いものだったのかな」  



性同一性障害のために、被告は仕事を探すのも難しかったという。



弁護人「仕事が決まらないのは、性同一性障害で、体は女、心は男で、制服を着る仕事ができないから?」


被告「はい」



家族との確執も背景にあったようだ。  



弁護人「(被告の)両親との関係はどうでしたか?」  



証人「決してうまくいっていない。父が突き放していた。性同一性障害への理解がなかった」



被告は25歳の時に実家を追い出されている。  


弁護人「あなたと両親がうまくいってないのはなぜ?」  



被告「親の子供にかける期待。上の姉はモデルをやっていて女の子らしかった。自分は運動はできたけど…」



被告は頸椎を痛め、サッカーを続けられなくなったという。



被告「サッカーの時は髪を短くしてもズボンをはいても周囲が不審に思わなかった。仕事を転々として、偏見があったりもして、現実から逃げなきゃいけなかった」  



被告の今後について、証人は支援することを約束した。



弁護人「いずれ被告は社会に出る機会があるが、協力しますか?」



証人「(かつて住んでいた)部屋はそのままにしてある。ハンディがあるから仕事は難しい。できれば、うちの会社の試験を受けてほしい」  



続いて弁護人は被告に問うた。  



弁護人「横で聞いていてどう思った?」



被告「正直、すべてを知った上でそれでもまだ自分を見捨てないで、手を差し伸べてくれる人がいることをありがたく思いました」  


涙声だった。



弁護人「最初の接見で『死にたい』『どうでもいい』と言っていたね。すべてを知った上で見捨てない人がいる。本当にこういうことをしてはダメだと思った?」  



被告「はい」



性同一性障害による差別。両親との確執。ケガで絶たれたサッカーの夢。そんないくつかの不幸が重なって、被告は困難な人生を送らざるを得なくなった。不幸が犯罪を正当化するわけではない。


だが、社会の側が性同一性障害の現実をもう少し知らなければならないのではなかろうか。  



最後に被告は言った。

「性同一性障害をかかえて生きていくには、まだまだ一杯つらいことがあるが、生きていきたい」  


検察側は懲役2年を求刑。判決は29日に言い渡される。 (末崎光喜)