雑誌会で取り上げられた論文で興味深い内容がありました.

"Submersion criticality safety of fast spectrum space reactors: Potential spectral shift absorbers"
--Jeffrey C. King, Mohamed S. El-Genk; Nuclear Engineering and Design 236(2006) 238-254

宇宙用原子炉の安全設計に関する内容です.
現状では宇宙用のエネルギーとしては太陽電池と燃料電池が一般的ですが,
宇宙に運搬するコストや太陽光の届かない深宇宙での利用,
また今後月面での活動をする際の安定したエネルギー源として宇宙用原子炉は注目を集めており,
NASAなどでも検討されているようです.

詳細な内容は省きますが,この論文では打ち上げに失敗し
原子炉が海中に沈んでしまった場合の影響と対策について述べられています.

そこで原子炉物理を少しでもかじった人間であれば,
海中に沈没することで海水による減速効果が高くなり,反応度が大きくなることは容易に想像できます.
さらに原子炉容器が破損して浸水などしようものなら,臨界超過の可能性はかなり高くなる.とも.

これまで実際,この"海中に沈没後浸水"という事象が最もクリティカルな事象と考えられていたようです.

この論文では安全性向上のためにSSAという中性子吸収材の使用を検討していますが,
このSSAの量が一定値を超えると,"海中に沈没して浸水した状態"よりも
"海中に沈没しているが浸水はしていない状態"の方が反応度が高くなる,
"反応度反転"という現象が起こると主張しています.


この論文の解析では均質炉心近似を用いていますし,原子炉自体が破断するといった体系変化までは解析していないので一概には言えませんが,
それでも常識が覆されたことには変わりありません.

専門家ですら思い込みにとらわれてしまう.

ましてや素人ならば,テレビやネットで多少かじった程度の知識によって物事を判断することは
非常にリスキーなことだ,と痛感しました.