『石部昌江のユウウツ』 | 莫妄想・莫煩悩な日々

莫妄想・莫煩悩な日々

妄想する莫れと言っても妄想する日々
煩悩を捨て去れと言われても煩悩は増えるばかり。
生きるとは大変なんだけど面白い。

昌江に見られながら南さんは
「…198えん、230えん、398えん……」と、
おぼつかない手つきでレジっている。
昌江が居ないときは、ササッとレジも出来るのに
どうも昌江に見られてると緊張して声が裏返り

商品を持つ手が震えてしまうのだ。
そんな南さんを後ろから「獲物を狙うハイエナ」みたいな

ズルイ目で昌江はチラチラと見ている。
「獲物を狙うライオン」と言ったほうがカッコいいのだが、

昌江の場合はライオンたちが食べ残したものを狙っている

ハイエナと例えたほうが適切なのだ。
昌江は決して自分から事を起こすようなことはしない。
たとえそれが小学生であっても。

傷つける言葉を武器として、つかってくるのだから。
しかし!相手が自分よりも弱い人や、

自分を傷つけない相手なら断然違ってくる。
そう、可愛い南さんは見た目と違い昌江を傷つけない。

だから待ってるのだ。
自分の出番が今か今かと…今日の獲物を狙っているのだ。
そして、そのときがきた!
南さんがお客さんの買った「乾電池」を

食パンや野菜の入ってるカゴの上に置いた時。

「ちょっと?あのねぇ…わかるかなぁ~南さん。その乾電池ぃ…食品と同じカゴに入ったらダメじゃない?お客様のね、食べ物と同じカゴに電池って……ふぅ~。失礼でしょ?ね。わかるかなぁ」

ネチネチと注意されて真っ赤な顔をしながら、

南さんは「失礼しました」と乾電池を小さな紙袋に入れなおした。
客につり銭とレシートを渡す南さんを見ながら昌江は、

朝からのイラつきが少しおさまったのを満足しながら感じていた。
ふと、乾物やラーメンのコーナーに目をやった昌江は

「フン!!」と鼻息を荒く吐き出し,今度はハイエナに変わり、

サイのようにドシドシとその通路に突進していく。
次は極上の獲物だ!

インスタントラーメンの箱で通路をふさいで品だしをしているのは
大学生アルバイトの「沢田くん」

「もおぅ。沢田くんはぁ…。お客様の邪魔にならないようにって言ってるでしょう。
ささっ。私も手伝うから、早く品だし終わらせましょうねぇ~」

南さんが聞いたら「チビッ」てしまうような声を出しながら、

沢田くんの小さなお尻をサッと撫でる昌江。

そして、「うげぇ」と腰を引く沢田くんであった。
これで、昌江の「イラつき」も半分おさまった。
昌江のストレス解消で被害を受けてる人たちが、

どんな気分なんて昌江には知ったことではない。
23時。
暗くなったスーパーの駐車場の真ん中で昌江は

携帯のメールをずーと見つめていた。
南さんの

「昌江さん、お疲れ様でした」と言う可愛い声も気づいてないようだ。
お尻を触られて気味悪がっている沢田くんが、昌江を避けながらも
「おつかれっス」と言ってるのも気づかないほど、メールに見入っている。
メールの送信者は、幼馴染の紅子だ。

『5月5日 居酒屋【もえみ】 17時 集合 遅刻厳禁!』

今年もこの日がやってきた!

昌江が一年で一番ユウウツになる日。
小学校からの幼馴染4人で毎年集まる

飲み会の召集令状だったのだ!!!!