そう、彼女はHIVに感染していたのだ
今はまだ私は知らなかった。
そうとも知らない私は一人で体を洗いながら後悔していた。
流れに身を任せてりゃー今ごろ…
彼女ふてくされてたな。ふてくされたってことは、彼女にとって、私の選択は不都合、思い通りにいかなかったということだ。
心の声からしてもそれは確かだ。
あのまま流されてたら、いいように骨抜きにされていたに違いない。
てゆーか
この心の声が聞こえるのって彼女に対してだけなのか、あるいは
他の人間に対してもなのか
もし後者ならすごいことだ。
私は対人関係において無敵の能力を得たことになる。相手の本音を見抜けると言うことは、その相手に騙されることはない。駆け引きはお手のものとなる。ちょっと考えただけでもそうとうすごい力だ。
少なくとも今、彼女に対して私は圧倒的イニシアチブを持っている。
何故聞こえるようになったのか
聞こえる時と聞こえない時があるのは何故か
気になることはたくさんあるが、まずは今の彼女主体のこの状況を覆してやる
私はあえて普段通りTシャツにトランクスという格好で浴室から出た
これから彼女と文字通り一戦交えることになる。比喩じゃなく文字通り圧倒的有利な心理戦を。
気持ちが高揚していた
この能力を意識的に使おうとしている
お待たせ。あー気持ち良かった。
遅いーわしゃー待ちくたびれたよ。どこをそんなに洗ってたの?
そりゃあすみからすみまでさ(笑)
私は汚らしい汚物の塊のようなものでして、入念にこすらないと汚れが落ちないのであります。ほら、私、汚れが落ちて少し縮みましたでしょう?
縮んでないし(笑)
ウケるーゆうさん変わってる(笑)
まあキレイになったならいっか
変でしょ俺。よく言われるよ。
私は
タバコ吸わせてとタバコに火をつけ、
彼女の隣りに座った。
吸う?
彼女に促すと
タバコは吸わないと言う
でも周りが吸うのは全然大丈夫だそうだ。
彼女は嘘をついている
彼女は実はタバコを吸う。吸わない女を演じてるようだ。
よく見ると、笑顔からこぼれる歯並びは悪く、タバコのヤニが前歯にうっすら沈着している。
化粧を落とした彼女の素肌はあれ気で、さっきまで二十歳くらいに見えたが、今は二十代後半くらいに見えた
彼女の魂胆がわかってから
最初あれほどこんなキレーなコいないと思ってたのに、今では別に特別とまでは思わなくなった。それでもキレイなことには変わらないが。
そしてわかったことがある。
私に本心で話しかけている時には本音の声は聞こえないようだ。
私本体から意識をそらしかつ私のことを考えてると、その考えが声となって聞こえてくるようだ
もっと言うと、私に本心を見透かされないよう壁を作ったり表情や言動仕草を意識的に作ると、逆に本心が浮かび上がってくるらしい。
パズルのピースを一枚抜いて隠しても、抜き取られた穴の形でピースの形が分かってしまうみたいな感じだ。
本音が言葉表情や言動仕草に現れてると、心の声は聞こえてこない。
あと
私の意識も重要みたいだ
相手の本音を読み取ろうとすればするほど声は鮮明にかつ詳細に聞こえてくる
この能力を手に入れる前から、相手の表情や言動仕草などで普段から相手の本音を読み取ろうとはしてきた
だから、この能力、そんな難しくない。
相手の思ってることをさぐろうとすれば自然と声が聞こえてくる
そういえばみおちゃんさ
聞きたかったんだけど四階の奴は拒んだのになんで俺の誘いには乗ってくれたの?
私はじっと彼女を見つめた
…
彼女はうつむき加減で小さな声で話しはじめた
…ゆうさんのこと、実は前から知ってたの。朝、コンビニで見かけてたの。
優しそうな人だなあって。
何度か目が合ったりして、
ゆうさんが
私を見る目が…私の気のせいならちょっと恥ずかしいんだけど、
多分ゆうさんと私、あの時同じ想いだったんじゃないかなって。
えっ
私が何に驚いたかと言うと、彼女の心の声が…聞こえない
目と目があった瞬間両想いになれた気がしたの。
…
ああ、この人しかいないって。
それで、雑誌渡してくれた時、びっくりしたけどすごい嬉しかった。
ごめんなさいなんかキモいよね。こんなこと言って。
いや、全然キモくないよ。
…だからあの時あんなにキラキラした笑顔で、自分のことわかって欲しくて堰を切ったように話し出したんだ。
うれしすぎて言葉が見つからない…そうだよ、俺、あの時、みおちゃんにみとれてたんだ。
そして今日、あんなに話しかけるの躊躇してたのに、気づいたら誘ってた。(笑)
私と彼女は見つめあっていた
そして
抱き合った。
彼女の心の声は聞こえなかった
つまり彼女の言動をそのまま解釈すればそれが彼女の本心なのだ
これは私の思っていた流れではない。しかし
そう思いながらも彼女をギュッと抱きしめた。
彼女の告白は本当に嬉しかった
タバコ…確かに嘘はついてたけど、それは私に嫌われたくないって気持ちからついた嘘だったのかも…
歯並び悪いのだってボクシングやってりゃしょうがない。
しかし彼女が悪巧みをしているのも事実。
この2つが矛盾なく彼女の本心だとしたら、わけがわからない。
私のこと好きになってくれたのに私から金を奪い挙げ句始末しようとか思ってるなんてどういうわけだ?
しかもさっきは色仕掛けしてきたし。
彼女の本心がわかるほど全体像が見えなくなってきた。
そもそも私のこの能力、絶対正しいのだろうか
いや、私はこの能力をきちんと理解出来てるのだろうか。
振り回されてる。彼女にもこの能力にも
この能力を簡単に理解したつもりになっていた。つかいこなせると思っていた。。
そして、人の本心がわかっても私の気持ちの姿勢次第で決め付け、早とちりはするものなんだと知った。
みおちゃん、
俺、まさかこんなことになるとは本当に思ってなくて、その…
何?
ゴム…持ってないんだ。
え…
間が空いた
いいよ。ナシでしよ。
そういうと彼女は私のあそこをふわっと掌に包んだ。
その言葉と彼女の手にたまらなく愛おしくなったが
私はそういうところは取り分け真面目なのだ
シートベルトはどんな状況でも必ず付けるタイプだ。でも赤信号は渡る。一貫性はない変な真面目さがあるのだ。
そう言ってくれてうれしいけど、
やっぱりこういうことはちゃんとしときたいんだ。
ごめんちょっと待ってて。コンビニ行ってくるから
ええ、行っちゃうん…
私は彼女を部屋に残してコンビニに出かけた
浴室でしそうになった時はもう性欲を抑えきれそうになくて後先考えずに流れに任せてしまいそうになったけど、今は違う…
私は彼女のこと、本当に好きに…
彼女のことがわからない
そして自分のこともわからない
彼女に惹かれるものがあるのだが、それがなんなのか、状況がややこしくて答えにたどり着けない。ただの性欲なのか…いやしかし…
あー!
わけわかんね!
なんで自分のことカモにしようとしてる女好きになりだしてんの?バカじゃん!俺ってこんなに流されやすい奴だったっけ?
性欲、情、猜疑、…なんかもう頭の中がめちゃくちゃになってる
思考が定まらない
人通りのない大通り、赤信号を無視して突っ切った
妊娠回避するため避妊具買いに行こうとして信号無視して車に跳ねられたらアホだな
とか思いつつも
そうこうしてるうちに
コンビニに着いた
店内には店員と数人の客がいた
あ、この、人の本心を読み取る能力、みおちゃんにだけ使えるのか、他の人間にも使えるのかこの状況ならわかるぞ。
ちょうど目の前にエロ本読んでるおっさんがいた。
どれ…
おっ この娘エロい好み やりたい
いい表情してんな
きたきた!バッチリ聞こえる
しかも今気づいたが自分が意識を対象に向ければどんな思いだろうが聞こえてくるらしい。逆に意識を向けなければ私と関係ない思いは聞こえてこない。
あれ…
そうなのか?
何か違和感ある。
ちょっと整理してみよう
私に対する事柄を思っている場合は、自動的に受信される
私に対して以外の事柄を思っている場合は、私が対象に意識を集中することで声を拾うことが出来る。
そして有効範囲は恐らく実際の聴覚より少し狭いくらいだ。囁く声を聞き取るようなものだろうか。慣れでその程度は広がっていくのかもしれないが。
とりあえず今の認識はそんな感じだ。
!
違和感の理由がわかった
もしその認識が正しいなら…
お腹がヒンとした
私が仕事終わって帰宅する途中に聞こえたあの音…あの時はまだ声として聞こえてなかったが、間違いなくアレも誰かの心の声だった。
誰かが近くで私のことを考えていた?
私のことを監視していた?
そういうことにならないか?
お腹がヒン…ヒン…と鳴った。
続く