駅前広場などでは、政治演説に混じって「あなたはあなたの罪を
悔い改めなさい!」という声がたまに聞こえてきます。たどたど
しい日本語のお説教を聞くと、テープを録音した外国人宣教師の
懸命さが伝わってきて微笑ましく思いますが、同時に、何だか神
様が信用できなくなるような気もします。また、外国から帰国し
た家庭の娘さんが、学校の先生を「あなた」と呼んで注意された
という話も聞きます。
日本語の慣習としては、自明な「あなた」は言わないのが普通
です。「あなた呼ばわり」ができるのは、親しい相手に限られま
す。ただし最近では、「あなた」で名指しして相手の注意を惹こ
うとする、××銀行の「あなたの預金を守ります」というポスタ
ーや、警察の「あなたのそばにいませんか」という指名手配写真
の掲示も見かけます。翻訳でも、日本語本来の奥床しさを尊重す
れば、原文に現れる you をあえて訳出しないのが自然だといえま
すが、「you だから『あなた』でいいじゃん」という世代が相手
のときは、この辺の判断がゆらいで困ることがあります。