SEやITエンジニアなどの技術者にも、英語の「読み書き」は必須のスキルです。
ネット上の膨大な情報を「読んで理解する」そして「訳して伝える」ための翻訳
レッスンや意外に知らない重要単語の解説をウィークリーでお届けします。
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CONTENTS
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【1】翻訳ワンポイントレッスン ~「お客様でも助動詞には勝てない」
【2】今週のコラム ~ 「あなた次第」
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【1】 翻訳ワンポイントレッスン
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★助動詞表現の重要性―お客様でも助動詞には勝てない
従来のように紙に印刷されたもの、ウェブ・サイトにオンラインで掲載されてい
るものを問わず、コンピューター関連文書を対象とした翻訳では、可能、許容、
義務、禁止などの意味を表す助動詞 can 、may 、must 、should 、will などの
取り扱いが重要になります。いわゆる意訳をする場合でも、助動詞類の意味を正
確に反映させることが大切です。
パーソナル・コンピューターのマニュアルなどでは、might 、would 、could な
どのテクニカル・ライティングとは馴染みにくい助動詞表現を使った一般向きの
文章を多く見かけます。そのため、訳文上でも、日本語表現の自然さと意味の明
確さの適度な妥協が必要になります。一方、技術的あるいは商業的に重要な義務
や禁止の意味を表す must や should を使った表現を、「物言いがキツくてお客
様に失礼だ」として翻訳時にトーンダウンしたり丸めたりするのを見かけますが、
必要なことは、たとえ相手が顧客であっても、明確に伝えるべきです。
[例文]翻訳してみよう
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Spyware and other unwanted software can invade your privacy, bombard
you with pop-up windows, slow down your computer, and even make your
computer crash.
<ヒント>
業界では、unwanted を「不正な」と決めつけます。bomber は、意訳が必要で、
pop-up は、カタカナ語に訳します。crash =「クラッシュする」は、この場合、
O/Sの突然の故障を意味します。
<直訳例>
スパイウェアとその他の不正ソフトウェアは、あなたのプライバシーを侵害し、
ポップアップ ウィンドウであなたを爆撃し、あなたのコンピュータを遅くし、
あなたのコンピュータをクラッシュさせることさえできます。
<翻訳例>
スパイウェアや他の不正ソフトウェアがプライバシーを侵害したり、ポップアッ
プ ウィンドウを表示してユーザーを悩ましたり、コンピュータの性能を低下さ
せたりすることがあります。また、コンピュータをクラッシュさせることさえあ
ります。
注:この会社は、カタカナ用語に学術表記を採用していますが、「プライバシー
に関する声明」では例外的に一般表記の長音記号(ー)を適用しています。
[今週の課題文]
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以下の文章を翻訳してみましょう。
You should be very careful with mv; it doesn't check to see if the
file already exists, and will remove any old file in its way.
<ヒント>
mv はmove の略で、UNIX のコマンド。should と will に注意。should は、
「べき」を使えば原文の真意がわからなくても機械的に訳せますが、訳文に文語
臭とあいまいさを持ち込むことになります。
★★★講師の模範訳例はこちら★★★
http://www.babel.co.jp/magmag/01.html
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【2】 今週のコラム Get IT! Got IT? アイティなっとく
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「あなた次第」
技術文書は、本来はテクニカル・ライティング手法で手堅く書くべきものですが、
「商業的技術文書」とでも呼ぶべきフレンドリーなユーザー・マニュアル類では、
You may want to … という婉曲表現が使われます。この表現は、直訳では「あ
なたは…したいかもしれない」となり、まじめな翻訳者は「だったらどうなん
だ!」とじれったがることでしょう。商業的技術文書での使われ方からは、この
表現が「…しようと思えばできる」という意味だとわかります。
しかし、日本語のテクニカル・ライティングでは、「…しようと思えば」とは何
ごとか!と、その客観性からの逸脱が指弾されてしまいます。したがって、実用
的な意味だけを書いて、「(あなたは)…できる」とするしかありません。これ
は、ビジネスでは、ずるい上司が部下にゲタを預けるときの台詞に使う言い回し
の「キミ次第だ/あなた次第よ」にも当たる点が、大変面白いと思います。
ではまた。