私は都内に住む、28才の無職、独身のおんなです。
無職というのは人に言えるまともな仕事は

してないという意味で、収入の方は最近、

世間一般でいうチャットレディをして暮らし

ています。

そのチャットレディにも色んなタイプが
あるんですが、私の仕事の場合は画面に

顔を出したりしないでメールや声だけで

出会い系サイトにかけてきた男性の通話ポイント

を消費させたり、同じサイト内の料金の高い

動画サイトに 誘導させたりというサクラの様な

事をしてます。

まあ内容が詐欺に近い事なので仕事とは呼べない

と思っているのです。


そりゃ私も最初は大学卒業して大手の会社に

就職したのはしたのですが、激務の仕事内容に
ついて行けなくなり、とうとう精神を病んで

しまい、退職という事になってしまいました。

実家に帰ろうかと思いましたが、大変な額の

学費を払ってもらって都会に黙って送りだして
くれた両親には仕事を辞めた事すら言えず

都内のワンルームのマンションで鬱々とこんな

チャットレディをやりながら生活してるのです。

はじめてチャットレディとして電話した時は

かなり緊張した。

でもはじめて電話した人は優しくて、私の

今までの生活を黙って聞いてくれた。

そして、御礼を言ってるうちに時間が無くなって

電話がキレたな。

確かその人に何かお願いをしたような気もしたが

わすれちゃったな。

とにかくそんな事を繰り返してるといつしか度胸

がついて電話でサラッと嘘もつけるようになってた。


そしてそんなある日の事でした。
いつものように午後の少し前から起きてから

仕事を開始しようと雇われてる会社の出会い系

サイトに電話をかけ、カモになる男性を探すため

いつものように通話待機していました。

するとものの数分もしない間に男性から通話が

あり、私はいつもの様に声のトーンを一段上げて、

暇な大学生を装いながら電話に出ました。

「はい、もしもし こんにちは!」
わざとらしく弾むような声で電話出た

私に対して通話相手の男はいきなりこう言った

のです。

「あぁ、加奈子か、元気?」

私は一瞬にして背筋がゾワッとなりました。
そう私の名前は加奈子、

そう通話中の男性が言ったカナコという

名前なんです。

しかもそれだけではなく
その男の声は忘れもしない昔付き合っていた

真守(まもる)の声によく似ていた、、、

というか真守そのものの声だったのです。
私はパニックになり、頭が真っ白になって
何と返事していいやら言葉がでずに困ってました。
すると男は続けて
「どうした、加奈子?久しぶりだよね」

完全に声や口調まで真守そのままでした。
私はますますパニックになり、

思わず電話を切ってしまいました。

私はわけがわかりませんでした。
なぜ元彼の真守が出会い系アプリの電話に

出るのか?
しかも私が出る事がわかってるような感じで、、、。
ますます怖くなってきました。
偶然?
いや真守は動じてない様子だったので、そんな

事はない感じでした。
あれはどう考えても紛れもなく真守の声だし、

真守の喋り方だった
そうだ、、、
私はスマホの連絡先に残ってた真守の番号に

電話してみる事にしました。

私の電話は非通知設定にして恐る恐る真守に

電話してみました。

すると
「この電話は使われておりません、番号をお確かめの上、、、、」
無機質な機械音声が聞こえてきた。
そうよ、

やはり真守は電話に出るわけがないわよね。
声に似た人よ、偶然よ偶然!
私は自分にそう言い聞かせて、チャットレディの

仕事に戻る事にしました。
そしてまた同じ様にサイトに電話して、男性から

かかってくるまで待機していました。

世の中の男は何でこうも暇なんだろ?と思う
くらいにすぐに男性から電話につながりました。

しかし先ほどの件もあり、いつもよりもは

わざとらしい元気さが出なくなく、

おどおどした電話の声になってしまいました。

「あのー、、、もしもし、、、こんにちは」
私が喋り始めると様子を伺ってた相手は軽薄

そう声で
「もしもし、君、何歳?こういうのはじめて?」
と、先ほどの真守の声ではなく、はじめて聞く

男の声でした。

しかも、私の電話の出かたがぎこちなかった

せいもあって完全に素人と思わせることができ、

どんどん会話を進める事が出来、相手の通話

ポイントを全部使わせる事に成功しました。

今日は真守らしき男の声のせいでスタートが

良くはありませんでしたが、偶然作れた

素人キャラ設定で数人の男性から通話ポイントを

巻き上げる事に成功しました。

時計をみると夕方の4時過ぎ。
いつもならまだまだ夜遅くまでやってるのですが
今日は快調だったので、もう1人で止めようと

思って本日、最後の通話に出たのでした。
「もしもし、、、こんにちは、、」
もちろん今日大当たりのぎこちない素人声です。
すると相手は
「加奈子か?さっきは切れたみたいだね
 元気?」
また真守の声の男でした。
私は安心しきってたところに真守の声が
聞こえたものだから
「ヒィーーーっ」と悲鳴をあげてスマホを思わず

遠ざけてしまいました。
「加奈子?どうした?真守だよ」
と真守らしき、いやもう真守がそう言うと、
パニックで怒りの感情になった私は
「誰だよあんた!!真守なんか
 電話に出るわけないだろ!!」
そう、怒鳴り返しました。
「何で僕が電話に出るわけないんだよ」
少し困った様な声で真守の声がそう聞き返して
きました。
「私は出会い系サイトにかけてるの
 どんな確率か知らないけど知ってる人が

 出るわけないじゃん。
 しかもね!

 そもそも真守はね!

 私が殺したの。

 別れ話を貴方からされて

 この住んでる部屋から出て行こうとする

 真守を背中から包丁で刺してね!」


すると真守はクッククと小さな声でわらい
「加奈子、何言ってるの?

 僕が君に殺された?

 だから電話に出られるわけない?

 って、

 そんなわけがないでしょ?」
真守は冗談をいう様な声で私に問いかけた。
怖くなった私は電話を切り、クローゼットに

隠しておいた業務用の大きな冷蔵庫を引っ張り

出してきた。

そして勢いよくフタをあけて、中にパンパンに

詰まった
小分けにされたピニール袋の一つをあけた。
カチカチに凍った腕が出てきた。
「やっぱり、ちゃんとあるじゃない」
私はそう呟いて

いちばん判別のしやすい

頭の入ったピニール袋を探した。
そして髪の毛らしいものがビニール袋の外から

見える小袋を開けて中を確認した。

私は開けた袋に驚き、思わず袋を下に落として

しまった。
ドカッと硬いモノが下に落ちる音がして、
ビニール袋の口が空いて、よく見ると半分、

私の顔が覗いていた。

すると私の背中からから真守の声が聞こえた。

そうだ真守はこの
「そうだよ、死んだのは君だよ加奈子。

 後ろから僕を刺そうとした君に勘づいて、

 僕が逆上して君を刺したのさ。

 そして僕の仕事場に転がってた業務用の

 冷蔵庫を運びこんで、君をバラバラにして

 入れた。

 家賃は毎月、僕が君の代わりに払ってる

 からご心配なく。

 多分、君は

 殺された俺を恨みながらこの場所で地縛霊

 としてこの世に恨みを残してこのマンションに

 漂っているうちに

 自分が生きてるような錯覚を起こして、

 しかも恨みをはらしたい僕を君が殺してやった

 と思い混んだのかもしれないね」

 
冷たい声で真守は今の私をそう解説した。

真守は続けて言った。
「でも巷の噂は本当だったんだね。
 出会い系サイトで男と出会って、別れ話から

 殺された女性が電話をかけてくるって。
 なぁ、加奈子?
 電話で話した相手に

 俺のこと、喋っちゃいないだろうなぁ?」
そう言うと真守はさっき私が落とした

私の凍った頭部を数回、踏みつけた。
「しかし初めはびっくりしたよ、このマンション

 にカメラ仕掛けたら君が、幽霊の君が電話して

 るんだもんな!

 余計な事を話される前にそろそろ君の死体を

 海に捨てて、このマンション掃除すれば完全

 犯罪は成立するわけだ!」

真守が凄んで声を荒げてビクッとしたが
その時、遠くの方からパトカーのサイレン

らしき音が近づいてくるのが聞こえた。


そうか、、、、

はじめてチャットレディとして話した相手の事を

思い出した。

そしてその人に話した内容もお願いした事も。


「真守、もう貴方、終わりみたいね」

真守にそう告げるとふと思った。

この仕事、私向いてるかもね。


そうわたしはチャットレディ加奈子、

いいわね。


〜終わり〜