「泥水の姿も、さぞか弱い『羊』のような姿に写し出されたであろう…」
「うむ。八咫の鏡、ヨが納めてよいな?」
「はい。王子様」
「残りは七体か。泥水の魂の行く先に『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』が、あるはずです。しかし、七体のうち、誰が持っているか、わかっておりません」
「うむ。うかつに動かないことだな。でわ、どうする?」
「ここは待ちましょう。こちらも『草薙』が7本あります。1本は私。1本は王子。1本は息子の小粒。残り4本の所持者を探さなくてはなりません」
「『草薙』は国宝だぞ。主たち以外に渡しとうない」
「でわ、王子が残り4本を預かっておいてください」
「うむ。そうしよう。でわ、それぞれの家へ帰るが良い。それと、これは褒美じゃ」
家臣の者たちが海の幸を持ってくる。
「好きに食べるが良い」
「ありがたき幸せ」
小粒たちは干物などを持ち帰った。
麗と魔惚露
小粒とマホロが別れてからしばらくして、数日後。遊郭のマホロの姉さん分がマホロに聞いた。
「この前の、坊や、どうだった?初めてだったんだろ?」
「…(小粒さんのことかな?)特に何もしませんでしたよ」
続いて聞いて来た。
「何もかい?」
「はい。ただ、触りっこして、お風呂に入っただけです。(…お風呂はまずかったか…)」
案の定
「へぇ…。お風呂へかい?あの小汚ないガキを…」
「(やっぱり。)なにかいけなかったですか?」
「風呂はねぇ、金(かね)をもったヤツしか入れないんだよ」
「いや、それが、お代はちゃんと、持ってたんですよ」
「あのガキが?見せてごらんよ?」
「はい」
マホロはしまっていた小袋を取り出し、姉さんに見せた。
「これは?」
「金(きん)です」
「まさか?黄鉄とか、雲母じゃないのかい?」
「王子から貰ったそうです」
「いやいや。そりゃないだろ?」
「本当です。あの人は嘘つくような人ではなかったです」
「…マホロ。男はね。ウソをつくものなのさ。どうせ、騙されてるんだよ」
そういった問答を繰り返した。
「じゃぁ、本物かどうか、調べ屋(鑑定)に出してみようじゃないか?」
「私も行きます」
「お前はいい。客もろくにとれないんだ。せっせと働きな」
「…はい」
「その間、預かっておくよ」
魔物も惚れない。男も朝露時に逃げ出す、魔惚露。それがマホロの通り名だった。
~そして、また、数日後~
「姉さん、例のどうでした?」
姉はとぼけた顔で言った。
「黄鉄だったよ。風呂代にだってなりゃしない。騙されてたんだよ。ほら、返すよ」
「そうでしたか…」
マホロは小袋の中身を見た。
「…これ、あの時の輝きがないじゃないですか?」
「…は?輝き?お前に金と黄鉄の違いがわかるのかい?」
「こう、ピカピカァ、とした輝きです」
「そんなことがわかるなら、調べ屋にでもなるがいい。あぁ、いやだ。お前を世話した私を疑うって言うのかい?そうかい、そうかい。少し頭を冷やしてきな。客がこないから、お前は休みだよ」
「わかりました。ちょっと、外、出てきます」
「さっさとお行き」
マホロはあてもなくさまよっていると、町の人の会話が聞こえてきた。
「…鶯谷の遊女がよぉ、とんでもないもの持ってきたんだ」
もう一人の男がたずねた。
「あの、アカネかい?口をひらけば、お代は?お金はという…」
「(姉さんのことだ)」
「そのアカネだが、たんまりと金(きん)を持ってきて、『これはなんだい?』と聞いてきやがったんだ」
「カネや、キンだ、お代は?って言ってるやつが、キンを知らないっていう、なんとも馬鹿げた話しさ」
「それ、詳しく聞かせてください」
マホロは、男の間に入った。
「それ、こんな小袋に入ってませんでしたか?」
男はまじまじと見た。
「おう、これだ、これだ。で、中身は…。なんだ、黄鉄じゃないか?」
「やっぱり、黄鉄だ」
そう言うと、マホロは走り出した。息をきらして走った先は、鶯谷ではなく、ご神木となる梅の木のもとだった。マホロもバカじゃない。アカネ姉さんとやりあったって、負けるのはわかっていた。
「おっかぁ…」
この梅の木は金のない、墓をたてられない、そんな人たちが灰を埋める場所。そこに悔しさのあまり、黄鉄を埋めた。
「憎い、憎い。姉さんが憎い。いや、すべての男、女が憎い。金(きん)とは違う黄鉄が憎い…」
すると、どこからかマホロを呼ぶ声が聞こえた。
「私を呼ぶのは誰?おっかぁ?」
「私は、この木の精霊、麗(うるは)。お前の気持ち、わかるよ」
「え?梅の木の?麗さん?」
「麗でいいよ。私はお前のような女を長い間、待っていたんだ」
「私を待ってた?」
「そう。それと、その憎き黄鉄を」
「黄鉄を?」
「そうさ、黄鉄さ。人をだます、魔物さ」
「まるで、姉さんと同じ」
「そうさ。悪いのはそいつさ。どうだい?復讐のためにチカラをかすよ」
「本当ですか?麗さん」
「あぁ、本当さ。それと、麗でいいよ」
「すいません」
「その前に、私の願いも聞いてもらえないかい?」
「交換条件ですか?」
「そんなとこ。私の願いはここに『草薙の剣』をもってくること」
「草薙の剣ですか?」
「とある外れの刀鍛冶が打った刀さ。その刀鍛冶が持ってるから、とってきておくれよ」
「はい、わかりました。で、場所は?」
「場所はねぇ…」
「…」
「わかりました。私、取り入ってきます」
「じゃぁ、頼んだよ」
「はい」
マホロは外れの村へ向かった。
総集編その1
つづく
ここ最近になって、日本海側の天気の悪さに心を病んでます。一刻も速い復旧を…
募金、有効に使われることを祈りながら、ほんの気持ちですが、入れてます。
受験生の方には、負けずに挑んでもらいたいです。
でわ、また