働き始めてすぐ、お店の入り口の床の拭き掃除をしていた。
視線を感じて外を見ると、2人の若くちょっといかつい男性が、こっちを見ている。
私が気づくと何か言っている。
「可愛いね!」
入り口の扉の向こう、歩道のガードレールに寄りかかっているので、ここからは2mちょっと離れているが、
どうみてもそう言っている。
「えー!!!」
50歳も半ばを超えたおばさんに、何を言ってるの⁉
私も、まんざらでもない⁉
すると、おもむろに一人が指を指した。
「何?」
思わず指の先、私のすぐ隣を見ると、、、
「わっつ‼」
水槽があり、トカゲ?
名前は「サスケ」。未だに正式な種目名は知らない。
当時、お店の近くに爬虫類専門のお店があり、そこに来るお客さんが
よく立ち寄って見に来ていた。
私は爬虫類は、ちょっと、、、。
でも、それからはいい距離感で付き合っていた。
私が床を拭き始めると、今まで食事をしている手を、いや、体を微動だにせず、
口元に色とりどりの餌をはみ出したまま、目だけをぎろりとこちらに向ける。
「しっかりやってるのか⁉」「いつお客様が来ても、気持ちのいい店にしろよ!」
「疲れてるなあ、飲みすぎか⁉何やってるんだよ、100%で来いよ!」
私は目が合うと、いつも心の中で「分かっています。心します。」と答える。
そんなサスケが、去る1月18日に逝ってしまった。
自分はこれでいいと思ってしまたら、人は終わりだと思う。
母が痴呆になり母のことが常に頭を占める今、彼は私にとっての戒めだったと痛感する。
いま水槽は空っぽだが、入り口をはいるたび、出るたびに、今日はどんな仕事をするのか、
どんな仕事が出来たのか、じぶんを戒めていきます。
