《妄想物語番外編》町の小さな写真館①  | みんなちがってみんないい

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田中圭くんを中心に
過去や現在大好きなもの
日常の中で思う事
発達障害の息子の事
そして
おっさんずラブ春牧onlyで
二次創作を書いています

大好きなものを大切にして
自分と違うものにも
目を向けてみる

皆違って皆いい
好きなものを好きと言おう

あれは、2ヶ月前。
一つの電話から始まりました。


『もしもし。』

『おはようございます。わたくし、東京の天空不動産という会社に勤務しております、武川という者ですが……』


とてもかしこまった話し方、
落ち着いた渋い声に
少し身構えました。
普段は、あまりこういう方から、
電話は来ないので、
なんかのセールスか、詐欺かと思ったのですが…。


『こちらで、訳ありのカップル向けの、ウェディングフォトを撮影されていると、お聞きしたのですが……』
 


そう……。
私と主人は、
ウェディングフォトを生業としています。

でも、ここまで来るのには、
いろんな事がありました。

主人と私は、高校の先生と生徒という関係でした。

高校3年生の時、
私のクラスの担任になった主人は、
とてもおもしろい人で
クラスの中でも慕われていて、
それでいて、クラスの中で何か問題があると、
決してそのままにせず、
まっすぐ向き合って、
クラス皆で話し合う人でした。

私は、どんどん惹かれていきました。
若気の至り…というのか、
私は、好きだという想いを
その頃から出していたと思います。

クラスでも、少し噂になっていました。

でも主人は、もちろん、その想いに
反応する事はありませんでした。
だからといって、私を避ける訳でもなく、
ちゃんと一人の生徒として、
まっすぐ接してくれました。

何もないまま、卒業の日を迎え、
卒業式の日、私は意を決して
主人に手紙を書いて、
次の週の日曜日、
一方的に待ち合わせ場所と時間を書いて、
ただ会ってくださいと
返事も聞かずに主人に渡しました。

来てくれないかもしれないのに、
日曜日、待っていると、
主人は来てくれました。

私は、これまでの想いを
主人にぶつけました。

主人は、まっすぐ受け止めてくれましたが、
その上で
自分は私と、先生と生徒という関係で
その関係を大切にしたいと言いました。

今、冷静に考えれば、
主人は正しい事を言っていました。
でもその時の私は、
好きな想いを押さえきれなくて、
そのあとも手紙や電話で押し続けて、
ようやく主人も根負けしたのか、
気持ちを私に向けてくれるようになり、
1年後お付き合いが始まり、
そのまた1年後、
結婚の気持ちが固まり、
お互いの両親に打ち明けましたが、 
両方に反対をされました。

特に私の両親には、頭ごなしに反対されました。

その時に私は初めて、
自分が反対されるような恋愛をしていたことに
気づいたのです。

その時、主人は32歳、私は20歳でした。

それは、主人の学校にも伝わり、
大きな問題となり、冷ややかな目で見られ、
ありもしない噂も流れ、
教育委員会にかけられ、
学校をやめさせられました。

だけど、主人は、私の事を大切にしてくれ、
教師という仕事を捨て、
道路整備の仕事をし、
合間に家庭教師のアルバイトもしながら、
お互いの両親に寄り添って、説得を続け、
やっと両方に了承してもらった時はもう、
主人は、40歳、私も28歳になっていました。

10年かかってやっと認められた証として、
二人で写真を撮りました。

これまでの道のりで、結婚式をする状態でもなく、
だからといって、生活に余裕もなく、
タキシードもウェディングドレスもない、
自分達が持っている一番ちゃんとした服で
写真を撮りました。

それから、すぐ娘をもうけて、
主人も、家庭教師の会社を立ち上げ、
何とか生計を立てれるようになり、
それから月日が経ち、
娘も社会人になったある日、
主人が、言ったのです。

家庭教師の会社を他に任せて、
自分は、写真館を開きたいと…。
少しびっくりしましたが、
その理由を聞いて、私はすんなり納得しました。


《私達は、いろんな事があって、結婚式を挙げれなかった。それを少し、後悔している…。せめて、タキシードやウェディングドレスがあって、写真だけでも撮れてたらという思いがある。だから、同じように何か理由があって、結婚式を挙げれなかった人の、ウェディングフォトを撮る仕事がしたい。》


結婚式も出来ず、
ウェディングドレスも着れなかった私への懺悔と
その思いを昇華させた夢を
主人は、持っていたのです。

その時、主人は58歳になっていましたが、
写真家に付いて勉強し、
独立して写真館を開きました。

最初の方は、精力的に何組ものカップルの写真を
撮っていましたが、
主人も今は、68歳になり、
体力もさすがに衰えて来たので、
1日1組にして、
撮るカップルも少し精査してから
選ぶようにしていました。



少し話が長くなりましたが、
さっきの電話に戻ります。


『はい、ウェディングフォトを受け付けておりますが、少しお話を聞かせていただいて、お引き受けするようにしています。』

『そうですか……。実は、わたくしの職場に、2人の男性がいます。その2人は、3年程の時間をかけ、いろんな事を乗り越え、結ばれました。でも、やっと愛を確かめあった2人が、また海外勤務で離ればなれになりました。もちろん、2人は想いあって、尊重しあっていますが、結婚式等の特別な事も、やれていません。大晦日、正月休みで帰ってきます。その日に、二人で旅行をプレゼントしたいと思っていて、ウェディングフォトも、プレゼントしてあげたいのです。ただ、元日なのですが……、受けて頂けないでしょうか?』


男性同士の依頼も、何組か受けた事があり、
その事には驚きもしませんでしたが
依頼者が本人達ではない事だけが
引っ掛かりました。


『正直、いつもはウェディングフォトを撮る本人達の想いを聞いて、判断しますので…プレゼントされて、ほんとに喜ばれるものであれば、お受けいたしますが……。』


たくさんのウェディングフォトを撮ってきましたが
いろんな事情を抱えている人が多いため、
途中で顔が曇るカップルもいます。

やはり、出来れば曇った顔を撮りたくは
ありません。

少し心配になりました。
すると、電話口で武川さんは、
もっと踏み込んだ事実を打ち明けてくれたのです。


『少し、話が長くなりますが、聞いて頂けますか?』

『もちろんです。私達は、納得してお受けしたいので。』

『そうですか…。実は、私のけじめと、もう一人上司の懺悔といいましょうか……。』


けじめと懺悔?


『私と上司は、それぞれ2人の内の1人を、好きでした。でも、それで少し2人の間を邪魔してしまいました。私も上司も、2人の気持ちはわかっていたのですが…いい大人なのに、諦めきれませんでした。特に上司は、馬鹿な事をしたと…悔いていらっしゃって……。そんな上司の姿を見るのが、少し切なくて…。私も、もう気持ちはありませんが、過去にけじめをつけたいと思いまして…。』


武川さんは、自分よりも
上司の方を気遣っていらっしゃるようでした。

その気持ちが、私の心を動かしました。


『わかりました。お引き受けします。』

『ほんとですか!ありがとうございます!』

『自分の幸せより、相手の幸せを祈られるのですね。』

『えっ??』


武川さんの驚いた声に、少しびっくりした。


『いえ…あまり、こういう依頼はないので……。』

『………。』

『どうかされました?』

『あ、あぁ……。ちょっと、聞き覚えのある言葉だったので…。』


武川さんには、
まだ何か引っ掛かるものがあるのだろうと
思いました。


『すみません。余計な事言いましたね。』

『いえ……、私には、あいつを幸せに出来なかったので……、2人には幸せになってほしいと、思っているだけです。』

『いつか、武川さんも、こちらにいらしてください!』

『ハハッ!私は…たぶん無理です……。』


そこで話は、意識的に変えられました。
フォトを撮る2人の情報を少しいただき、
日時と場所を確認して、電話を切りました。


武川さんともう一人の上司の方の想いを
強く感じて、気持ちが引き締まりました。


そして、その日が近づいてきたのです。




つづく