俺は、凌太の実家に向かった。
『ごめんください。』
『いらっしゃい!待ってたわよ。創一くん。』
凌太のお母さんは、
いつも温かく迎えてくれる。
結婚指輪を買った事を報告してから、
凌太のお母さんとそらちゃんは、
俺を名前で呼んでくれるようになった。
電話やLINEは、ときどきするが
家にお邪魔するのは、
凌太がシンガポールに行く前だから
3ヶ月ぶりか…
リビングに通されると
そらちゃんと恋人の真輝くんがいた。
そういえば、真輝くんは、
花火大会で、みっともない姿を見られた以来だな。
『真輝くんだよね。あの…、花火大会の時は……。』
『いえ…気にしないでください。大丈夫です。あらためまして…鶴久真輝です。よろしくお願いします。お義兄さん。』
『お義兄さん?』
『凌太さんと創一さんは、お義兄さんなので。』
『あっ、そっか…。』
何だか、そらちゃんの恋人に、お義兄さんと呼ばれると、少しむず痒い気持ちになる。
家族……という事になるんだな……。
ってあれっ?
『創一さん、私達、来年の6月に結婚するから。』
『えっ?ほんとに???おめでとう!』
お母さんは、嬉しそうに笑っている。
『うちの子、どちらも幸せになってくれて、嬉しいわぁ。』
『まだ、幸せかどうかは、わからん。』
『お父さん!』
お父さんの登場に、俺も真輝くんも
直立不動になる。
そっか、俺達、同じ立場。
『お父さん!お邪魔してます!!!』
俺と真輝くんの声が揃って、
ちょっとおかしい感じになった。
『やぁねぇ~、二人とも、声合わせちゃって。』
俺だけじゃなく、真輝くんも、
お父さんには、まだ認められてないのかな…。
そう思って、真輝くんを見たら
真輝くんも、俺の方を見ていて
思わず二人で、苦笑いした。
『お前達、気が合うみたいだな。気が合う者同士、ゆっくりしていけばいい。俺は、用事があるから出かける!』
『お父さん……。』
そう言い残すと、お父さんは、
ほんとに外出してしまった。
それでも、いつもと変わらず、お母さんは、ニコニコしながら言う。
『ごめんなさいねぇ、相変わらず、不器用な人で。』
『いえ…こちらこそ、急にお邪魔してしまって、すみません。』
『違うのよ。実は、創一くんが来るってわかったから、真輝くんを呼んで、顔合わせすればいいって、お父さんが、真輝くんを呼ばせたのよ。』
『えっ?』
『新しく家族になる者同士、ちゃんと会わせた方がいいんじゃないかって、お父さんが…。』
そうだったんだ……。
『だけど……、まだお父さんも気持ちが追い付いてない所があるから、お父さんの事、待ってあげてね。』
『……はい。』
お父さんの気持ちが、とても嬉しかった。
俺も、お父さんに、
安心して受け入れてもらえるように、
もっと自分を磨かなきゃいけない。
『さぁ!お父さんは、仕事でほんとに出ていっちゃったから、ご飯にしましょう!今日も、唐揚げよ。』
やった!唐揚げだ。
凌太が作った唐揚げと全く同じ味の唐揚げ。
一口食べたら、とても幸せな気持ちになった。
『美味しい……。』
思い出すな…凌太との生活……。
何でこんなに凌太で頭がいっぱいなんだろう。
ちょっと女々しいくらいだ。
しっかりしろ!俺。
『創一さん!涙目になってるよ!大丈夫?』
そらちゃんに言われて、我に帰る。
『大丈夫。あっ、そうだ!実は、今日来たのには、理由があって。実は、もう明日なんだけど、高級旅館の宿泊券と航空券ペアでもらってさ、そらちゃんと真輝くん、行かないかなと思って。』
『明日?ごめんなさい、真輝と私、明日カウントダウンライブに行くから、無理なんだ!』
『そっかぁ…。やっぱり、駄目かぁ。』
『創一さん、行けばいいじゃん。』
『でも…一人じゃ……。』
『今時、一人なんて珍しくないよ。せっかくの高級旅館なんだから、行っておいでよ。』
すると、真輝くんも畳み掛けるように言った。
『俺、明日、空港まで送りますから。行きましょう!』
そうだな……。
もったいないし、一人でも行くか……。
結局、明日
一人で大分に行く事に決めた。