《妄想物語》牧家と春田の答え合わせ③ | みんなちがってみんないい

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田中圭くんを中心に
過去や現在大好きなもの
日常の中で思う事
発達障害の息子の事
そして
おっさんずラブ春牧onlyで
二次創作を書いています

大好きなものを大切にして
自分と違うものにも
目を向けてみる

皆違って皆いい
好きなものを好きと言おう

『ただいま。』


玄関に入ると
お母さんは、わざとなのか
少し大きな声で俺達を出迎えた。


『あらぁ~、おかえりなさい。春田くんも久しぶりねぇ~。』

『はい!こんにちは。あ、あの…お父様は、ござ……ござい……ご在宅ですか!!!』


二人の会話の向こうで
ガタッと大きな音がした。

お父さんは、居るようだ。


『えぇ、どうぞ、上がって。』
『おぅ…おぅ…お邪魔しまぁす!!!』


何だか、春田さんが
テンパっていて、声が裏返っている。


一番最初に春田さんと
お父さんに挨拶に行ったとき、
ものすごい剣幕で怒られた。



…………『認められるわけないだろぉぉ!何で男なんだ!!!』

俺もお父さんに
本当の自分を打ち明けたのは
初めてだった。

反応は、想定内だったけど
言えただけで少しほっとした。
お父さんを悲しませてしまったかもしれないけど…

いつかは、話さなければいけなかった。

だけど結局
その日の夜……
俺は春田さんに別れを告げて
春田さんから離れた。

自分でも何をしているんだろうと思う……

だけど…、いつか、ちずさんが
春田さんに想いを告げる…。
それが怖くて、俺は、
既成事実を作るかのように
春田さんを実家に連れていった。

《春田さんと幸せになりたい。ずっと一緒に居たい。》

少し焦っていた。

実家に行って、お母さんや、そらと
すぐに打ち解けて楽しそうな春田さんを見て
少しだけ…春田さんとの未来が
見えた気がした。

だけどすぐに
不安が襲ってきた。

俺は……本当に
このまま春田さんを自分の世界に
引き込むのか?

それで本当に
春田さんは幸せなのか?

『もっと牧の家族と仲良くなりたい。』

そう言われた時
俺は、嬉しさより不安が勝っていた。

春田さんには、俺のいない未来の方が
幸せじゃないか…と。

春田さんのお母さんの気持ちや
ちずさんと抱き合っている春田さんを見て
確信した。

優しい春田さんの心が
揺れないように
自分から別れを告げよう。

いや……
たぶん春田さんの心が揺れるのを
見たくなかった。
俺は、高校の時のように
好きな人から逃げたんだ……。

自分が傷つきたくなくて。

なのに……
春田さんは、1年経っても俺を想ってくれてたんだ。

俺を迎えに来てくれたんだ。

…………………


『なんだ、また来たのか?』
『お、お父さん、ご無沙汰しています。』
『ご無沙汰って程じゃないだろう。この前も私のいない間に来てたって、聞いたぞ。』

ん?お父さんの居ない時?
思わず春田さんを見ると、春田さんは苦笑いでごまかしている。

すると、すかさずお母さんが
麦茶を持ってきた。


『あらあら、お父さんったら、ヤキモチやいてるのぉ?』


あいかわらず、斬新な切り口で、話を持ってくるお母さん。

それなのに、まともに受けるお父さん。


『別に私は、こいつにヤキモチなんか、焼いてない!』

『またまたぁ!うふふ♪』


自分の親ながら、
不思議な組み合わせの夫婦だと思う。

お母さんのおかげで
少し場が和んだ。

すると、春田さんが
あらためて姿勢を正し、言った。


『今日は、お父さんと、それからお母さん、そらちゃんにも話を聞いてもらいたいです。』


春田さん…?


『あら、そうなのぉ?そらぁ!春田くんから話があるって。』

『はぁーい。』


お父さんを真ん中に両脇に
お母さんとそらが座った。


春田さんは、ふぅーと
一度大きな息を吐いて話し始めた。


『僕は…牧を幸せに出来る自信はありません。』


春田さんの言葉に、お父さんが声を荒げる。


『なんだとぉ!!!』

『僕は、牧にいつも、いろんな事をやってもらってるのに、牧には何もしてあげれなくて、家事も何回言われても失敗する事もあるし……なんか…牧の気持ちもわかってあげられない事も多くて……それから…それから……』


春田さん……。


『だけど……、それでもずっと、牧の気持ちを感じていたいです!牧の笑顔も泣き顔も怒った顔も……悩んだ顔も弱音を吐く顔も全て、死ぬまでずっと見ていきたいです。僕達は、これから日本とシンガポールで、また離ればなれになります。だけど、牧の夢を応援して、自分自身ももっと成長して、牧が帰ってきたら、また一緒に暮らしたいです。』


春田さん…そんな事考えてくれてたんだ。


『もちろん、二人がずっと一緒にいることには、いろんな障害があります。同性同士の結婚も認められていないし、……お父さん、お母さんには、孫の顔を見せてあげることも出来ません。これから先、まだ気づいていない困難もたくさんあると思います。ただのわがままかもしれません…。それでも、牧と、一緒に生きていきたいです。』


春田さん……

すると、そらが沈黙を破るように言う。


『やだぁ!春田さん。そら、感動しちゃう!』


お母さんも続けて言う。


『お母さんも感動しちゃうわ♪』


しかし、お父さんは、
テーブルをバンと叩いて大きな声を出す。


『うるさぁい!!!さっきから……牧、牧って。この家の人間は、みんな牧だ!!!』


少し、ズレた言葉を吐いたお父さんは、
へそを曲げたように
隣の部屋に行ってしまった。

春田さんは、少し、しょんぼりしてるように見える。

しかし、お母さんが能天気な声で
空気を変えた。


『さぁ!お腹すいたから、みんなで夕飯食べましょう♪』


春田さんが、ズッコケそうになっている。

そんな春田さんを尻目に、そらも、


『お腹すいたねぇ~、今日はご飯なんだろ♪』


ほんとに、この二人は、天然なのか?
お父さんの様子を、気にもとめていない。



事前に来ることを言ってたからか、
食卓には、たくさんの料理が並んでいる。


『春田くんと言えば、唐揚げよねぇ~。あと、ポテトサラダ。それからぁ…。』


お母さんは、一旦言葉を切って、
お父さんの方を向いて、聞こえるように
少し大きめの声で言った。


『お父さんのだぁい好きな、牛すじの煮込みよぉ!!!』


お父さんのいる方から、ガタッと音がする。
分かりやすい人だな。
そらも続けて、お父さんに向けて言う。


『お父さん食べないのぉ?牛すじの煮込みなんて、めったに出ない、お父さんの大好物じゃん!一緒に食べないと、なくなっちゃうよ!』


そして、お母さんがトドメを刺す。


『お父さん食べないみたいだから、春田くん、みんな食べていいからね!』

『あ、はい。いただきます。』


すると、お父さんが慌てて
食卓に出てきた。


『これは、俺が一番大好きなものなんだぁ!!!』

『じゃあ、一緒に食べましょうね♪』


その言葉に、お父さんは、
一緒の食卓に渋々ついた。


『はい!じゃあ、いただきます。』

『いただきます!』


お母さんって、ほんとお父さんを上手に
操るなぁ。
天然だか、計算だか、
たまにわからないときがある。

お父さんは、時々、春田さんを睨みながらも
一緒にご飯を食べた。

春田さんは、時にお父さんを恐々と見ながらも
少し安心したような顔をしながら
大好きな唐揚げを頬張っていた。


『春田くん、牛すじも食べてみて。』

『はい!……うわぁ!柔らかっ!!!おいしいですぅ!』

『牛すじは、半日くらい煮込まないといけないから、普段は中々作れないのよぉ。今日は、春田くん来るって言うから、はりきって作っちゃった♪』


お父さんが聞き逃さず、声を荒げる。


『なんだ!お前たちは、こいつが来るって知ってたのか!!!』

『あらっ。つい口が滑っちゃった。』


お母さんは、悪びれる事もなく、開き直っている。


『なんだ……だいたい牛すじの煮込みは、私の料理だぞ…それをこいつなんかに食わせて……』


お父さんは、不満そうにブツブツ言っている。

確かに、牛すじの煮込みは、
結婚する前にお父さんが胃袋を掴まれた
大切な料理らしく、
いろんな材料が入っていて、牛すじも煮込む前に
下処理が大変で、
俺でもまだ習得出来てない料理だ。


『だって、春田くんももうすぐ、私達の家族になるんだから、一番の自慢料理食べてもらわなきゃと思って。』


お母さん…。
あぁ…でもそんな事言うと……。


『私はまだ、認めてないからな!!!俺はもう、寝る!!!』


バーン!!!と
テーブルを叩いて、お父さんはそのまま
自分の部屋に戻り、襖をドンと強く閉めた。


『お母さん、お父さんには、荒治療過ぎるよ。』


呆れたように、そらが言う。
それでも、お母さんは、フワッとした声で


『そぉーお?だって、家族になるんだもん。春田くんと。ねっ!春田くん♪』

『あ、はい…そうですね。』


春田さんは、お父さんを気にしながら
小さく同意した。


『二人とも今日は、泊まっていくでしょ?明日、二人で休み取ったって言ってたわよね?』


明日は、シンガポールに持っていくものの
買い物に付き合ってもらうために
二人で休みを取っていた。

まぁ…実家からショッピングに向かえばいいか…。
でも、春田さんはどうなんだろう。


『是非、泊まっていって。』

『はい…。お父さんが良けれ……。』


春田さんの話しも最後まで聞かず
お母さんは、促した。


『春田くん、お風呂沸かしてるから入ってきて。』

『あ…はい!お先にいただきます。』


春田さんは、お風呂に向かった。
俺は、シングルベッドしかない自分の部屋に
布団を敷こうと、部屋に向かった。

春田さん…気持ち追い付いてるかな。
お父さんの様子を見て、どう思ったんだろう。

自分の部屋を整え、部屋を出た時
ちょうど向かいの部屋にいた、そらが出てきた。


『あ、そら。』

『お兄ちゃん。』


その時、ふとさっき疑問に思ったことを
思い出した。


『なぁ、そら。春田さん、俺が居ないときに、家に来たのか?』

『うん、来たよ。…花火大会の日に2回ね。』


花火大会の日に、2回…?
花火の時って……どういう事だ?

あの時の出来事が頭を過る。

幸せと絶望が一度にやって来た
最悪な日……。

偶然にも、そらのおかげで
待ち合わせ出来て、
春田さんは、俺の姿を見て
照れたような顔をして一緒に屋台を見て回った。

いろんなものを食べて
あいかわらず、春田さんは俺が食べてるものを
一口ちょうだいと言って食べて

そして、普通の恋人のように
手を繋いだ。

幸せだった。
春田さんはもう、前みたいに
人目を気にすることもなく
堂々と恋人繋ぎをしてくれた。

幸せだったのに、
俺がトイレに言ってる間に
狸穴さんから立て続けにLINEが来て
それを見てしまった春田さんと
喧嘩になって…そして……。


『別れようぜ。』


俺もやけになって、別れを選んだ。

見上げた空に、花火が次々と上がっているのに…

さっき春田さんと見た時は
あんなに綺麗な花火だったのに
なぜか、同じ花火が色褪せて見えた。

涙が溢れそうになるのを堪えながら
俺は、狸穴さんの元に向かった。


その花火大会の日に、なぜ春田さんが?


『口止めされてたけど、お父さんが話しちゃったから、隠しても仕方ないよね。ちょっと、お兄ちゃんの部屋、お邪魔していい?』


そういって、そらは、俺の部屋に入った。



つづく