剥製
剥製
山の中をフラフラすることが好きだったが何時の間にか
そのふもとに流れている渓谷のほうが好きになった
魚が見える
あれを釣りたいなぁ
と思うようになって、その為に川へ行くようになり
餌で釣っていたものが
ある日釣具屋で見た、ブレットン社製のスピナーの綺麗さだけの為に
ルアー釣りに変わって行った
水の中でキラキラと回っているブレードを見ているだけでも気分は良かった
遊びが趣味になって
趣味というのは仲間を探し出す物であるらしい
いつの間にか仲間とともに
渓谷から湖へ、海へと釣りの範囲が広がっていた
東大法科を出て弁護士になる筈の男
医学部へ行きたくない医者の長男と医者に成ろうとしているその妹
ステンドグラスのアーティスト夫妻
学校の先生
デザイナー
色々集まって、行って、釣って、食べて、飲みまくるのだった
高じて、一度、つり道具を買いにアメリカへ行った事がある
ミズリーで道具が揃うと、そのままバス釣りに行ったり
フライで何とか大物をと思い
ポートランドへ飛んで、カーフマンを店に訪ねて
振り方から教わって、道具を揃えポイントを聞き
鱒を釣り、アル夏をすごした
そのときに気になったのが
どこの店の壁にも掛かっている妙に綺麗な剥製だった
日本でカツテ見た様な半分乾物みたいではないのを見てしまった
それを作る人の家まで行って、夜なのに仕事場を見せてもらった
動物から魚まで何でも剥製にしている
多分、人でもそう出来ると言っていたが、そうだと思う
工房の横の小さな部屋の中に鹿やイノシシがあったが
その部屋でフリーズドライにしたのだそうだから
人も出来ないことは無さそうだ
そんなことで、剥製を作りたいナと思って
日本に戻ると、手軽にホルマリンを使った方法で、色付けが勝負だ
とはじめたのだったが
ホルマリンが劇薬扱いで買う度に警察に提出する書類を薬局で書く
ハンコを持って、何の気も無く随分使ったが、あまりに使うので
薬局の親父さんが
警察に届けるんだから、後で面倒な事だってあるんだよ
と そう私に言った
簡単なことなのだ
どっかでホルマリンがらみの事件が起きたら
私からも何かを聞くだろう
それで、済む訳ではなくて、警察が行き詰れば
犯人を作ることだって、いくらでも出来るんだ
と言うような事であった
剥製作りが好きな男が狂って人を殺していたのだ
と警察あたりがいえば
それを信じる社会もあったかも知れないなとは思う
有り得る事だ
しばらくして剥製を作らなくなったのは、そんな事があったからではなくて
部屋中が魚だらけになったので
満足し
その後は
竿やルアーやフライを作る方が楽しくなっていたのだ
昔話でした